・・・ 次に重要な要素は何と云っても母音の排列である。勿論子音の排列分布もかなり大切ではあるが、日本語の特質の上からどうしても子音の役割は母音ほど重大とは考えられない。これがロシア語とかドイツ語とかであってみれば事柄はよほどちがって来るが、そ・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・それは如何なる点に存するか明白に自覚し得ないが、やはり子音母音の反復律動に一種の独自の方式があるためと思われる。ともかくもその効果はこの作者の歌に特殊の重味をつける。どうかするとあまりに重く堅過ぎるように私には思われる事もあるが、考えてみる・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・これはいずれも母音で始まり、次に子音で始まる綴音が来る。終わりのnは問題外とする。 一般に母音で始まり次にいずれか任意の一つの子音の来る場合が火山の表中で何個あるかを数えてみる。この数を N(VC) で表わす。するとこの中である特定の一・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・しかしよく聞いてみると、だいたいの音の抑揚と律動が似ているだけで、母音も不完全であるし、子音はもとより到底ものになっていない。これは鳥と人間とで発声器の構造や大きさの違うことから考えて当然の事と思われる。問題はただ、それほど違ったものが、ど・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・これも例えば長母音を勝手に二音に数えたり、重母音を自己流に分けたり合したりすると短歌と同じ口調に読めるものが多数にある。この場合は第二句の方が短いからなおさら都合がよいのである。例えば。。 などは十二、五、七、七と切って・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・ある母音や子音は明瞭に出ても、たとえばSの音などはどうしても再現ができなかったそうである。その後にサムナー・テーンターやグラハム・ベルらの研究によって錫箔の代わりに蝋管を使うようになり、さらにベルリナーの発明などがあって今日のグラモフォーン・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・おもしろいので試みにアー、イー、ウー、エー、オーと五つの母音を交互に出してみると、ア、オなどは強く反響するのにイやエは弱く短くしか反響しない。これはたぶんあとの母音は振動数の多い上音に富むため、またそういう上音はその波長の短いために・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・そもそも日本の女の女らしい美点――歩行に不便なる長い絹の衣服と、薄暗い紙張りの家屋と、母音の多い緩慢な言語と、それら凡てに調和して動かすことの出来ない日本的女性の美は、動的ならずして静止的でなければならぬ。争ったり主張したりするのではなくて・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 私は、七歳で、真白い紙の端に墨の拇印をつけながら、抓んで半紙を御飯台の上に展げた。母は、傍から椎の実筆を執り池にぽっとりした! 岡でくるくる転して穂を揃えた。その筆を持って、小さく坐っている私の背後に廻った。「さあ筆を持って。――・・・ 宮本百合子 「雲母片」
出典:青空文庫