・・・ お婆さんは、とぼとぼと家を出かけました。月のいい晩で、昼間のように外は明るかったのであります。お宮へおまいりをして、お婆さんは山を降りて来ますと、石段の下に赤ん坊が泣いていました。「可哀そうに捨児だが、誰がこんな処に捨てたのだろう・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・ おばあさんは、とぼとぼと家を出かけました。月のいい晩で、昼間のように外は明るかったのであります。お宮へおまいりをして、おばあさんは山を降りてきますと、石段の下に、赤ん坊が泣いていました。「かわいそうに、捨て子だが、だれがこんなとこ・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・ 二人は、とぼとぼと話しながら、町を出はずれて、あちらに歩いていきました。「これから、あなたは、どこへおゆきなさいますか。」と、子供は、若者にたずねました。「私はいままで、ある工場で働いていましたが、病気になったために、その工場・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・ しかし、おじいさんは、知らぬ顔で、とぼとぼと歩いていました。おじいさんには太陽のいったことが、ちょうど子供のようにわからなかったのであります。――一九二二・七作―― 小川未明 「幾年もたった後」
・・・ いっそ死んでしまおうかしらんと考えながら、彼は、下を向いてとぼとぼと歩いてきました。いろいろな人たちが、その道の上をば歩いていましたけれど、少年の目には、その人たちに心をとめてみる余裕もなかったのであります。 やはり、下を向いて歩・・・ 小川未明 「石をのせた車」
・・・そして、こんなに暗くなって、おじいさんはさぞ路がわからなくて困っていなさるだろうと、広い野原の中で、とぼとぼとしていられるおじいさんの姿を、いろいろに想像したのでした。「さあ、お休み、おじいさんがお帰りになったら、きっとおまえを起こして・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・爺は胡弓を持って、とぼとぼと子供の後から従いました。 その町の人々は、この見慣れない乞食の後ろ姿を見送りながら、どこからあんなものがやってきたのだろう。これから風の吹くときには気をつけねばならぬ。火でもつけられたりしてはたいへんだ。早く・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
・・・ ある日の晩方、彼はさびしく思いながら田舎路を歩いていますと、不思議なことには、このまえじいさんにあったと同じところで、またあちらから箱をしょってとぼとぼと夕日の光を浴びながら歩いてくるじいさんに出あいました。じいさんは光治の顔を見ると・・・ 小川未明 「どこで笛吹く」
・・・と、決心しながら、とぼとぼと、なおも途を歩いてきました。 高い山の端が、赤く、黄色く色づいては、いつしか沈んでしまいました。娘は悲しく、日の沈むのをながめました。もう家を出てからだいぶ遠く歩いてきました。いまごろ、弟や、お母さんは、どう・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・ 眼の底が次第に白く更け、白い風が白く走る寒々とした焼跡に、赤井はちょぼんと佇んでいたが、やがてとぼとぼと歩きだした。が、どこへ行こうとするのか、妻子を探す当てもなく、また、今夜の宿を借りる当てもない。 当てもないままに、赤井はひょ・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
出典:青空文庫