・・・猟夫といっても、南部の猪や、信州の熊に対するような、本職の、またぎ、おやじの雄ではない。のらくらものの隙稼ぎに鑑札だけは受けているのが、いよいよ獲ものに困ずると、極めて内証に、森の白鷺を盗み撃する。人目を憚るのだから、忍びに忍んで潜入するの・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・エクボは二つ、アバタは大勢、こりゃ何としてもアバタの勝じゃが、徒歩で行かずに飛んで行けと、許されたる飛行の術、使えば中仙道も一またぎ、はやなつかしい上田の天守閣、おお六文銭の旗印、あのヒラヒラとひるがえること、おお、このアバタの数ほども、首・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・ こっちの山からあっちの山まで、一またぎで行かれそうだ。 ちっちゃけえ河、まあ、あげえにちっちゃけえ河!「オーーイッ!」 彼は、洗いざらいの声で叫んでみる。「オオオオイ……」 むこうのむこうーの雲の中から、誰かが返事・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・作家にとってその成長のひとまたぎは、どんなにささやかなものであるにしても、つねに血肉をもって生きられたひとまたぎでなければならなかった。しかし、理論家にとっては一篇の作品を細心に吟味することで、プロレタリア文学として次の発展段階へ、しかじか・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫