・・・灰色の官給長外套を着たプロレタリアートの子が命令の意味を理解せず山羊皮外套を着たプロレタリアートの子を射った。「血の日曜日」である。 血は無駄に冬宮前の雪に浸みこんだのではなかった。「十月」が来た。 すべての権力をソヴェトへ 餓・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・お伽話というものは、例えば巖谷小波がこの正月にラジオで放送したああいう山羊の仙人というような話は、子供の話としてソヴェトにはないわけである。何故ないかというと、そういう風な全然子供自身が大人から聞かなければ知らないような、そういう幻想、それ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 平凡でただゆったりしているのが便利な私の机の上にいつもあるのは、山羊の焼物の文鎮、紺色のこれも焼物の硯屏。それからそこいらの文房具屋にざらにあるガラスのペン皿。そのなかには青赤エンピツだの小鋏、万年筆、帳綴じの類が入っている。アテナ・・・・ 宮本百合子 「机の上のもの」
・・・しゃべっている山羊髯は痩て蒼いが底艷のあるようなほっぺたに一種のにやにや笑いを浮べ、ゆっくりしゃべりつつ聴衆を見渡した。――たとえばだね、月夜の晩人のいない公園の小道で青年が一人の若いとてもたまらない女に出っくわしたとすると、どうだね。我々・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫