・・・アラビヤ夜話の時代のこととでも言いましょうか。私がハッサン・カンから学んだ魔術は、あなたでも使おうと思えば使えますよ。高が進歩した催眠術に過ぎないのですから。――御覧なさい。この手をただ、こうしさえすれば好いのです。」 ミスラ君は手を挙・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・明神様もけなりがッつろと、二十三夜の月待の夜話に、森へ下弦の月がかかるのを見て饒舌った。不埒を働いてから十五年。四十を越えて、それまでは内々恐れて、黙っていたのだが、――祟るものか、この通り、と鼻をさして、何の罰が当るかい。――舌も引かぬに・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・『新橋夜話』または『戯作者の死』の如きものはその頃の記念である。浮世絵並に江戸出版物の蒐集に耽ったのもこの時分が最も盛であった。 浮世絵の事をここに一言したい。わたくしが浮世絵を見て始て芸術的感動に打たれたのは亜米利加諸市の美術館を見巡・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・一例を挙ぐれば彼が自筆の新花摘に射干してく近江やわたかなとあり。射干は「ひおうぎ」「からすおうぎ」などいえる花草にして、ここは「照射して」の誤なるべし。蕪村が照射と射干との区別を知らざるはずはなけれど、かかることに無頓着の性とて気の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・というきょうの文学のやわたしらずの中で、三好十郎もまた吐くのは反吐という姿にある。「では誰のアミが現代のアクタモクタをホントにしゃくいあげることができるだろう? 田村泰次郎のアミがそれだなどと言う人があったら、失礼ながら私はひっくりかえって・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・は昨年の同じ作者による「シーボルト夜話」の続篇として書かれた。貴司山治氏の戯曲「洋学年代記」には、学者としての良心と達識とのために国法にふれた幕末蘭学者の一群と間宮林蔵の運命とが扱われた。村山知義氏は「或るコロニーの歴史」に朝鮮人の生活を描・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・「甲子夜話」には、慶長十二年の朝鮮の使にまじっていた徳川家の旧臣を、筧又蔵だとしてある。林春斎の「韓使来聘記」等には、家康に謁した上々官を金、朴の二人だけにしてある。もし佐橋甚五郎が事に就いて異説を知っている人があるなら、その出典と事蹟の大・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫