ある機会で、予は下に掲げる二つの手紙を手に入れた。一つは本年二月中旬、もう一つは三月上旬、――警察署長の許へ、郵税先払いで送られたものである。それをここへ掲げる理由は、手紙自身が説明するであろう。 第一の手・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ 四日目、私は遊説に出た。鉄格子と、金網と、それから、重い扉、開閉のたびごとに、がちん、がちん、と鍵の音。寝ずの番の看守、うろ、うろ。この人間倉庫の中の、二十余名の患者すべてに、私のからだを投げ捨てて、話かけた。まるまると白く太った美男・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ただ相違のある点は国民何千万人が総計延べ時間何億時間を消費し、そうして政府に何千万円の郵税を献納するか、しないかである。」 こんな好い加減の目の子勘定を並べてありふれの年賀状全廃説を称えていたが、本当はそういう国家社会の問題はどうでもよ・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・有名な中島湘煙が十九歳で政談演説を行い、婦人政治家として全国遊説をし、岡山に女子親睦会というのが出来た。成田梅子は、仙台に女子自由党を組織し、男女同権という声は、稚拙ながら新興の意気をもって、日本全国に響いたのであった。 ところが、一八・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・例えば有名な中島湘煙、福田英子などという当時二十歳前後であった婦人政治家たちが、男女平等を唱えて日本全国を遊説した。大阪などでは少女が、政壇演説に出席したという話さえも伝っている。岡山には女子親睦会という政治結社が出来てあったし、仙台には女・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫