・・・空を飛ぶ仲間では、鷲、鷹、みさごぐらいなものか、餌食を掴んで容色の可いのは。……熊なんぞが、あの形で、椎の実を拝んだ形な。鶴とは申せど、尻を振って泥鰌を追懸る容体などは、余り喝采とは参らぬ図だ。誰も誰も、食うためには、品も威も下げると思え。・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・近優りする若い女の容色に打たれて、私は知らず目を外した。「こちらは、」 と、片隅に三つばかり。この方は笠を上にした茶褐色で、霜こしの黄なるに対して、女郎花の根にこぼれた、茨の枯葉のようなのを、――ここに二人たった渠等女たちに、フト思・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・と口もやや馴々しゅう、「お米の容色がまた評判でございまして、別嬪のお医者、榎の先生と、番町辺、津の守坂下あたりまでも皆が言囃しましたけれども、一向にかかります病人がございません。 先生には奥様と男のお児が二人、姪のお米、外見を張るだ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ただ不思議なのは、さばかりの容色で、その年まで、いまだ浮気、あらわに言えば、旦那があったうわさを聞かぬ。ほかは知らない、あのすなおな細い鼻と、口許がうそを言わぬ。――お誓さんは処女だろう……――これは小県銑吉の言うところである。 十六か・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ けれども、脊恰好から、形容、生際の少し乱れた処、色白な容色よしで、浅葱の手柄が、いかにも似合う細君だが、この女もまた不思議に浅葱の手柄で。鬢の色っぽい処から……それそれ、少し仰向いている顔つき。他人が、ちょっと眉を顰める工合を、その細・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・以前にも両三度聞いた――渠の帰省談の中の同伴は、その容色よしの従姉なのであるが、従妹はあいにく京の本山へ参詣の留守で、いま一所なのは、お町というその娘……といっても一度縁着いた出戻りの二十七八。で、親まさりの別嬪が冴返って冬空に麗かである。・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・膝で豆算盤五寸ぐらいなのを、ぱちぱちと鳴らしながら、結立ての大円髷、水の垂りそうな、赤い手絡の、容色もまんざらでない女房を引附けているのがある。 時節もので、めりやすの襯衣、めちゃめちゃの大安売、ふらんねる切地の見切物、浜から輸出品の羽・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・……ところを、桔梗ヶ池の、凄い、美しいお方のことをおききなすって、これが時々人目にも触れるというので、自然、代官婆の目にもとまっていて、自分の容色の見劣りがする段には、美しさで勝つことはできない、という覚悟だったと思われます。――もっとも西・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・第一容色はよし、気立てはよし、優しくはある、することなすこと、おまえのことといったら飯のくいようまで気に入るて。しかしそんなことで何、巡査をどうするの、こうするのという理窟はない。たといおまえが何かの折に、おれの生命を助けてくれてさ、生命の・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・とその後妻が、(のう、ご親類の、ご新姐――悉しくはなくても、向う前だから、様子は知ってる、行来、出入りに、顔見知りだから、声を掛けて、(いつ見ても、好容色と空笑いをやったとお思い、とじろりと二人を見ると、お京さん、御母堂だよ、いいかい。怪我・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
出典:青空文庫