・・・彼は世界の災厄の原因と、国家の混乱と顛倒とをただすべき依拠となる真理を強く要請した。「日本第一の知者となし給へ」という彼の祈願は名利や、衒学のためではなくして、全く自ら正しくし、世を正しくするための必要から発したものであった。 善と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ これは学生時代から書物に対する態度をあまりに依属的たらしめず、自己の生と、目と、要請とを抱きつつ、書を読む習慣を養わなければならないのである。 他人の生と労作との成果をただ受容してすまそうとするのは怠惰な態度である。というのは生と・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・恋愛についてこうした理想的な要請をする場合に、私たちはそのことを考えると力抜けがするのを感じる。これはどうしても社会制度一般の正しい建てなおしをしなくてはならないのである。精神的理想を主張するものは、その意味で一方必ず社会改革の根本的運動に・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・一切の婦人は熱心に社会、国家の革新を要請し、そのために協力しなければならないのである。 しばらく社会改革を抜きにして考えるならば、職業と母性愛とをできる限り協定させるよりほかはない。結婚するまでの就職はもとよりいいであろう。それは真面目・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・しかし、この矛盾・衝突は、ただ四囲の境遇のためによぎなくせられ、もしくは養成せられたので、その本来の性質ではない。いな、彼らは、完全に一致・合同しうべきもの、させねばならぬものである。動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、この二者のつねに・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 此二者は古来氷炭相容れざる者の如くに考えられて居た、又た事実に於て屡ば矛盾もし衝突もした、然し此矛盾・衝突は唯だ四囲の境遇の為めに余儀なくせられ、若くば養成せられたので、其本来の性質ではない、否な彼等は完全に一致・合同し得べき者、させ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・美男子ではないが血色もよく、謂わば陽性の顔である。津島さんと話をしておれば苦労を忘れると、配給係りの老嬢が言った事があるそうだ。二十四歳で結婚し、長女は六歳、その次のは男の子で三歳。家族は、この二人の子供と妻と、それから、彼の老母と、彼と、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・たちまち花、森、泉、恋、白鳥、王子、妖精が眼前に氾濫するのだそうであるが、あまりあてにならない。この次女の、する事、為す事、どうも信用し難い。ショパン、霊感、足のバプテスマ、アアメン、「梅花」、紫式部、春はあけぼの、ギリシャ神話、なんの連関・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・云わば『精神的の筋肉』を得てこれを養成しなければならない。それがためには語学の訓練はあまり適しない。それよりは自分で物を考えるような修練に重きを置いた一般的教育が有効である。」「尤も生徒の個性的傾向は無論考えなければならない。通例そのよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・その水中を泳ぐ格好がなかなか滑稽で愛敬があり到底水上では見られぬ異形の小妖精の姿である。鳥の先祖は爬虫だそうであるが、なるほどどこか鰐などの水中を泳ぐ姿に似たところがあるようである。もっとも親鳥がこんな格好をして水中を泳ぎ回ることは、かつて・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
出典:青空文庫