・・・よく見ると簑は主に紅葉の葉の切れはしや葉柄を綴り集めたものらしかったが、その中に一本図抜けて長い小枝が交じっていて、その先の方は簑の尾の尖端から下へ一寸ほども突き出て不恰好に反りかえっていた。それがこの奇妙な紡錘体の把柄とでも云いたいような・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・丁度昔、彼が玄武門で戦争したり、夢の中で賭博をしたりした、憐れな、見すぼらしい日傭人の支那傭兵と同じように、そっくりの様子をして。 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ だから、今、お前はその実際の力も、虚勢も、傭兵をも動員して、殺戮本能を満足さすんだ。それはお前にとってはいいことなんだ。お前にとって、それはこの上もなく美しいことなんだ。お前の道徳だ。だからお前にとってはそうであるより外に仕方のない運・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・自分のところは無傷で、よその国を軍事基地化し、そこの人民を傭兵として、それで戦争をやるのだ、という風に。―― しかし、みなさま。 この地球のどこに、他国の軍事基地となるために存在して来た国があるでしょう。 そして、みなさま。・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・まわりでは、帝国主義の戦争ヒステリーにかかったものたちの上ずった大声がこの次の戦争には日本の人民を利用することができる、傭兵制を考えられる、とわめきたてている。日本という一つの島国がアジアに向って太平洋のはじにつらなっているという自然の現象・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・ たった五六本ほかなく、それも黄ない葉が多くなって居るのを今夜中つめたい中に置いたらどうだろう、青い細い葉柄がグンニャリと首をたれて黄葉も多くなるに違いない。 私は仕かけた筆を置いて地震戸からそとに出る。 ひどい霧だ かなり・・・ 宮本百合子 「夜寒」
出典:青空文庫