・・・外見は、物静で、ちんまりしているけれど、内部で、そういう些事に労する神経は並大抵でないらしい。なかなか窮屈なことと思う。 女の人が、総体経済家で、きれいずきで、家政的に育て上げられているのは、一寸傍から見れば、共に生活する男の人の幸福の・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・彼は経験上こんな雄弁を弄する度に、誰か相手になってくれる。少くも一言くらい何とか言ってくれる。そうすれば、水の流が石に触れて激するように、弁論に張合が出て来る。相手も雄弁を弄することになれば、旗鼓相当って、彼の心が飽き足るであろう。彼は石田・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・静かな、聞こえるか聞こえないほどの声で、たましいの言葉を直接に語り出させようとするような、あのメエテルリンクの芝居が、耳を聾するようなワグナアの音楽にも劣らず人心を動かしたのは何ゆえであるか。それを知るものはただ調子の弱さをもってこの画を責・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫