・・・すると君、ほかの連中が気を廻わすのを義理だと心得た顔色で、わいわい騒ぎ立てたんだ。何しろ主人役が音頭をとって、逐一白状に及ばない中は、席を立たせないと云うんだから、始末が悪い。そこで、僕は志村のペパミントの話をして、「これは私の親友に臂を食・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・ただ学校の帰りらしい、洋服を着た子供が二三人、頸のまわりへ縄をつけた茶色の子犬を引きずりながら、何かわいわい騒いでいるのです。子犬は一生懸命に引きずられまいともがきもがき、「助けてくれえ。」と繰り返していました。しかし子供たちはそんな声に耳・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・ たくさん子供たちが、わいわいと集まってきました。ヨシ子さんも、三郎さんも、我慢がしきれなくなって、とうとう、そっちへかけ出していってしまいました。 しかるに、正ちゃんだけは、そんなことも耳にはいらないように、じゅず玉をとおしていま・・・ 小川未明 「左ぎっちょの正ちゃん」
・・・ところが買って来たものの、屠殺の方法が判らんちゅう訳で、首の静脈を切れちゅう者もあれば眉間を棍棒で撲るとええちゅう訳で、夜更けの焼跡に引き出した件の牛を囲んで隣組一同が、そのウ、わいわい大騒ぎしている所へ、夜警の巡査が通り掛って一同をひっく・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ただ、私のしたことは、魂の故郷を失った文学に変な意義を見つけて、これこそ当代の文学なりと、同憂の士が集ってわいわい騒ぐことだけはまず避けたのである。 なるほど、私たちの年代の者が、故郷故郷となつかしがるのはいかにも年寄じみて見えるだろう・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・猫と杓子が寄ってたかって、戦争だ、玉砕だ、そうだそうだ、賛成だ賛成だ、非国民だなどと、わいわい言っているうちに、日本は負け、そして亡びかけたのです。 猫であり、杓子であるということは、つまり自分の頭でものを考えないということであります。・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・そしてたまに大きなのがかかると、いやこれはタマだとか、タマではあるまいとか、昨日俺の釣った奴だとか、違うとかいったようなことを言っては、他の連中までがわいわい騒いでいる。そしてそうした大きな鯉の場合は、家から出てきた髪をハイカラに結った若い・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・大将はどうかして物にしてやろうというので手間取っているだろうが、それじゃア実際君の知ってるとおり僕がやりきれない、故郷のやつら、人にものを頼む時はわいわい言って騒ぐくせに、その事がうまくゆくと見向きもしないんだ。人をばかにしてやアがる。だか・・・ 国木田独歩 「疲労」
・・・町中のものは大山のような大きな大きな大男が来たのでびっくりして、わいわい言いながら、みんなでぞろぞろ後へついていきました。ぶくぶくは広場へ来ると、「さあ、みんなどけどけ、あぶないぞ/\。」と言いながら、大通りにたかっている人を追いはらい・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・ひとり生れていましたが、夏休みになると、東京から、A市から、H市から、ほうぼうの学校から、若い叔父や叔母が家へ帰って来て、それが皆一室に集り、おいで東京の叔父さんのとこへ、おいでA叔母さんのとこへ、とわいわい言って小さい姪ひとりを奪い合うの・・・ 太宰治 「兄たち」
出典:青空文庫