・・・ 灰色と白色との合するところに細く立木が並んで居るほか植物は影さえもなく町に通わなければ「生」を保って行かれない弱い力の人間どもがふみつけた道が世の中を思わせる様に曲りくねり細く太くずーっと見通せるもより遠くまでつづいて居る。 やせ・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・ 敵のこすい脅しのわなにかからず、わたしらはわたしらの日本プロレタリア文化連盟を守ろう!『働く婦人』を守ろう!「働く婦人の夕べ」の記念、三月八日の国際婦人デーの記念のため、近づいて来たメーデーまでに『働く婦人』直接購読者を倍にふやそう!・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・ 大変ものやわらかに、品のいいような快さを感じるとともに、年に似合わない単純さに、罪のない愛情を感じて、尨毛だらけの耳朶を眺めながら自ずと微笑まれるような心持になるのである。 禰宜様宮田は至って無口である。 どんな諷刺を云われよ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 心からわしが御事を偉い御方じゃと思うたらゆずっても進ぜようがのう、 あやにくわしはよう思わなんだ。 それ故にわしはならぬと申すのじゃ、許さぬと申すのじゃ。 わしは皇帝じゃ御事はわしの命令には服さねばならぬ。法 貴方は・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 文学が貧困化して来るにつれ、文壇というものは僅なものの売食いで命をつないでいる生活者のように排外的になり、その壁の中へ参加する機会をつかむためには、女までをくわなければならないような事態になった。 そういう文壇というものが、作家生・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ ソヴェト同盟をのぞく世界じゅうのプロレタリア大衆は、めいめい本国、植民地の職場で、賃銀引下げ、労働強化に反対し、ストライキし、ダラ幹征伐を行わなければならないでいる。それだのに、その小説で職場の革命的反対派を描かないようなダラ幹派プロ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・悪辣きわまるその「わな」とも闘い抜いて私は八十日の後自由をとり戻したのですが、みなさん忘れてならないことは現在十数人のわれわれの同志たちが日本プロレタリア文化連盟から奪われて投獄されているという事実です。中には演劇同盟員・「コップ」婦人協議・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・書いてある国守の掟も、女の詞にたがわない。 人買いが立ち廻るなら、その人買いの詮議をしたらよさそうなものである。旅人に足を留めさせまいとして、行き暮れたものを路頭に迷わせるような掟を、国守はなぜ定めたものか。ふつつかな世話の焼きようであ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・食は野菜のみ、魚とては此辺の渓川にて捕らるるいわなというものの外、なにもなし。飯のそえものに野菜煮よといえば、砂糖もて来たまいしかと問う。棒砂糖少し持てきたりしが、煮物に使わんこと惜しければ、無しと答えぬ。茄子、胡豆など醤油のみにて煮て来ぬ・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・殊にそのため部下の諸将と争わなければならなかったこの夜の会議の終局を思うと、彼は腹立たしい淋しさの中で次第にルイザが不快に重苦しくなって来た。そうして、彼の胸底からは古いジョセフィヌの愛がちらちらと光を上げた。彼はこの夜、そのまま皇后ルイザ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫