・・・のわきを電車がまわるとき、ニーナはなんとも云えないよろこびで、三月八日と大きく輝いている赤色イルミネーションを眺めた。赤い光りはボーと屋根の雪までてりかえしている。 電車の乗合も、どっかのクラブか芝居へ出かけるらしい労働婦人たちが多い。・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・一九二九年の初秋には、このエッフェル塔にシトロエン6というイルミネーション広告が終夜明滅していた。父、母、妹たちはヴルール・ペレールのアパートメントに住み、百合子はヴォジラールの下宿の窓から、シトロエン6、シトロエン6、とせわしい明滅が、シ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 農業休みに十日か二十日の東京見物に出かけたものは、只にぎやかな町の様子、はやしたてて居る見世物、目のさめる様な店飾りにイルミネーション、立派な装で自動車を飛ばせて行く人、ぴかぴかに光った頭の婦人、その他あれやこれや、只もうにぎやかなパ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・から降るイルミネーションで、外套の肩と胸とを赤く照らされながら、歩いている通行人。 決して歩調をはやめずまたサドーヤを横切ると、その街燈柱と菩提樹のところ、きっちりさっき日本女が一度馬車から下りた地点で車を止めた。あっち向のまま、 ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・ ピカデリー広場でイルミネーションがちらつく時刻である。郊外からロンドン市へ向う街道という街道の上を自動車があらゆる型を並べて疾走した。そして月曜日の夕刊新聞は左の報告と記事とをのせるだろう。週末の自動車事故何件。死傷何人。先週より・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫