・・・「あ、そうそう、文春に書いたはりましたな。グラフの小説も読みましたぜ。新何とかいうのに書いたはりましたンは、あ、そうそう、船場の何とかいう題だしたな」 お内儀さんは小説好きで、昔私の書いたものが雑誌にのると、いつもその話をしたので、・・・ 織田作之助 「神経」
・・・姉の熱のグラフにしても、二時間おきほどの正確なものを造ろうとする兄だけあって、その話には兄らしい味が出ていて峻も笑わされた。「その時は?」「かい虫をわかしとりましたんじゃ」 ――一つには峻自身の不検束な生活から、彼は一度肺を悪く・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ いつか郊外のおそばやで、ざるそば待っている間に、食卓の上の古いグラフを開いて見て、そのなかに大震災の写真があった。一面の焼野原、市松の浴衣着た女が、たったひとり、疲れてしゃがんでいた。私は、胸が焼き焦げるほどにそのみじめな女を恋した。・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・アサヒグラフ所載のものであって、児島喜久雄というひとの解説がついている。「背景は例の暗褐色。豊かな金髪をちぢらせてふさふさと額に垂らしている。伏目につつましく控えている碧い神経質な鋭い目も、官能的な桜桃色の唇も相当なものである。肌理の細かい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・近ごろ朝日グラフで、街頭のスケッチを組み合わせたページが出るが、ああいうものを巧みに取り合わせて「連句」にすることもできる。 器械の活動美を取り入れたフィルムもあるが、やはりこしらえものは実に空疎でおもしろくない。たとえば「メトロポリス・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・このごろのアサヒグラフの表紙裏に出ている二重写しのお慰みの当てものなどはいちばん罪が浅いほうであろう。 カメラをさげて歩いている途中で知人に会ってちょっと立ち話をするとする。そのとき、相手の人によると自分のカメラをさげていることなどには・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・いつか朝日グラフにいろいろな草の写真とその草の薬効とが満載されているのを見て実に不思議な気がした。大概の草は何かの薬であり、薬でない草を捜すほうが骨が折れそうに見えるのである。しかしよく考えてみるとこれは何も神様が人間の役に立つためにこんな・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・今は「テレグラフ」を取っておらん、「スタンダード」だ。この新聞は上品な新聞だからここへ出る広告なら間違はないと思って四月十七日の分の広告欄を読み始めると、存外営業的のが多くって素人家へ置きたいと云うのが少ない。しかしいろいろのがある。「宿料・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・の貧困は事実、一冊の雑誌さえ容易に買えない経済状態に農民をおとしいれているが、資本主義の生産はすべて大量に生産されたものが安いから雑誌でも部数を多く刷るものが比較的安く即ち同じ三十銭でうんと頁を多く、グラフまで入れて作れるという訳になる。と・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・号をよますようにと、グラフを貼りつけたり、字を書いたり、一生懸命やったのである。 昼休み 賑やかな手風琴の音が工場の広場にひびきわたっている。地面に雪は凍っているが、そんなことはものともせず、モスクワ煙草工場の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
出典:青空文庫