・・・ 二十歳代の青年期に蜃気楼のような希望の幻影を追いながら脇目もふらずに芸能の修得に勉めて来た人々の群が、三十前後に実世界の闘技場の埒内へ追い込まれ、そこで銘々のとるべきコースや位置が割り当てられる。競技の進行するに従って自然に優勝者と劣・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・定性分析のコースを一学期やらせてもらったくらいのものであった。しかし読物には事を欠かなくてマクスウェルの電磁気論や、マクスウェル及びヘルムホルツの色の研究、それからストークスやウィリアム・タムソンの主要な論文を読み、傍らまたミルの論理学や経・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 二 卓上演説 近年いろいろの種類の宴会で、いわゆるデザートコースに入って卓上の演説がはやるようである。あれは演説のきらいな人間には迷惑至極なものである。せっかく食欲を満足したあとでアイスやコーヒーを味わいかけていい・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・やがて宴が始まってデザート・コースに入るや、停年教授の前に坐っていた一教授が立って、明晰なる口調で慰労の辞を述べた。停年教授はと見ていると、彼は見掛によらぬ羞かみやと見えて、立つて何だか謝辞らしいことを述べたが、口籠ってよく分らなかった。宴・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・六班がみんな思い思いの計画で別々のコースをとって調査にかかった。僕は郡で調べたのをちゃんと写して予察図にして持っていたからほかの班のようにまごつかなかった。けれどもなかなかわからない。郡のも十万分一だしほんの大体しか調ばっ(ていない。猿ヶ石・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・しかしローレンスが性について語るとき、彼と彼女とは裸の神々のようにむき出しで、自然がその営みにおいてそうであるように、それ自体充実したコースをたどって、かくしだてがない。そのような公明正大な性のあらわれに対して、おどろかされた人々は、どうと・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・「この間ミス、コースという方がいらっしゃいましてね、貴女が彼等のためにいろいろ努力なすっても無駄でしょうと仰云いましたの。だから私ね、私は無駄でもやらずには居られないというと其ならおやりなさるもよいが、効はありますまいとはっきり云いなさ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 自分という船の自分のコースがしっかり出来たら、どんなにいい気持でしょうって。岸沿いに、岸の灯にひきよせられたり、そうかと思うと濤に押しのけられたりしていないで、水の深い沖を自分のコースに従って堂々進行する船になりたいって。――あなたの公判・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・日本の民主化は非常にジグザグなコースをとって根気づよく、人民の力によって行われなければならない内外の事情におかれている。文学もこの事実からきりはなして語られることではない。 文学が人間生活に対する理解と共感とにたつ愛と努力の社会的な行為・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・出しでは、清浄であった一生懸命であったみんな中休みでは、まだ人生の希望をすてなかったみんなふり出しでは、健康であった心も、正しかったみんな、中休みではまだ自分のコースを話し合って・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫