・・・この童話集の一列は実に作者の心象スケッチの一部である。それは少年少女期の終りごろから、アドレッセンス中葉に対する一つの文学としての形式をとっている。この見地からその特色を数えるならば次の諸点に帰する。一 これは正しいものの種子を有し・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 私はふと、いつか幼年画報に出ていたたけしという人の狐小学校のスケッチを思い出しました。「画家のたけしさんです。」「紹介状はお持ちですか。」「紹介状はありませんがたけしさんは今はずいぶん偉いですよ。美術学院の会員ですよ。」・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・その六十里の海岸を町から町へ、岬から岬へ、岩礁から岩礁へ、海藻を押葉にしたり、岩石の標本をとったり、古い洞穴や模型的な地形を写真やスケッチにとったり、そしてそれを次々に荷造りして役所へ送りながら、二十幾日の間にだんだん南へ移って行きました。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・新しい社会性の上に立って文学の仕事に進もうとする人々に、スケッチや報告文学をかくことから導いているプロレタリア文学の方法は、この意味で文化の現実に即し、新たな文化のヒューマニズムに立っているのである。同時に、既に十分の技術をもっている作家が・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・○ 寿江子をおがみたおして、ハガキへ一枚門のところのスケッチをして貰う。風がひどくて寒いと中止。自分内心大悄気だが、おとなしく黙っていた。〔一九三九年三月〕 宮本百合子 「寒の梅」
ここに一枚のスケッチがある。のどもとのつまった貧しい服装をした中年の女がドアの前に佇み、永年の力仕事で節の大きく高くなった手で、そのドアをノックしている。貧しさの中でも慎しみぶかく小ざっぱりとかき上げられて、かたく巻きつけ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・或る子は絵でスケッチをやる。そうかと思うと詩がある。工場新聞の切りぬきに、自分の批評をつけたものを書くジャーナリズムむきの子もある。それぞれみんなが、力をこめた自主的制作をまとめて、級の成果とするのだ。 一つのいい知慧があれば、プロレタ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・けれども健康のためにもう少し居る方がよいし、きょうは十日間の収穫として短いこの生活のスケッチなど『サンデー毎日』に書き、段々調子がついて来るらしい。二十日頃にかえってずっと仕事をします。いかにもここの空気が気に入っていて、何だかまだしんにの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という自然描写のスケッチ文集を出版しているのであるが、これは、こんにちよむと、日露戦争以前の日本文学の中で、自然がどう見られていたかを知ることができ、なかなか興味がある。蘆花は当時としては欧州文化を早く吸収したクリスチャン出であったのだけれ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 彼が持って来たのを見ると、それは大神楽に見とれていたなほ子のスケッチであった。横を向いている頬ぺたのところや、爪先に引っかかったスリッパの尻尾が垂れ下っているところなど、なほ子は自分の感じをはっきり感じた。「こんなに描けるの? 詮・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫