･･･ 湯槽は小じんまりとしたコンクリートで出来ていて、お湯につかっていながら、スウイッチをひねると、ガチャン、ガタン、ガチャン、ガタン、ゴボン、ゴボンとスチームが入ってくるようになっていた。入浴時間 十五分 規定の時間を守らざ･･･ 小林多喜二 「独房」
･･･おまけに所々に蒸気機関があり、そのスチームパイプが何本も通っているのである。坑夫等はもちろん裸体で汗にぬれた膚にカンテラの光を無気味に反映していた。坑内では時々人殺しがある。しかし下手人は決して分らない。こんな話を聞かされたりして威されてい･･･ 寺田寅彦 「夏」
･･･窓の下に一列のスチームヒーター。色々の手拭やタオルの洗濯したのがその上に干し並べてある。それらがみんな吸えるだけの熱量を吸って温かそうにふくれ上がっている。 コキコキ。コキコキ。コキコキコキッ。 ブリキを火箸でたたくような音が、こう･･･ 寺田寅彦 「病院風景」
･･･室の入口の壁に立っているスチームヒーターの上に当る白壁が黒く煤けているのが特に目立って不愉快であった。妙な事にはこの汚い床の上に打倒れてうめいている自分とは別にまた自分があって倒れている自分を冷やかに傍観しているような気がした事であった。･･･ 寺田寅彦 「病中記」
近くには黄色く根っ株の枯れた田圃と桑畑、遠くにはあっちこっちに木立と森。走りながら単調な窓外の景色は、時々近く曇天の下に吹きつけられて来る白い煙の千切れに遮られる。 スチームのとおっている汽車の中はどっちかというと閑散･･･ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
出典：青空文庫
