・・・ 毎年十月十八日の彼の命日には、私の住居にほど近き池上本門寺の御会式に、数十万の日蓮の信徒たちが万燈をかかげ、太鼓を打って方々から集まってくるのである。 スピリットに憑かれたように、幾千の万燈は軒端を高々と大群衆に揺られて、後から後・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・世の中に人間ほど貴い者はない、物はこれを償うことが出来るが、いかにつまらぬ人間でも、一のスピリットは他の物を以て償うことは出来ぬ。しかしてこの人間の絶対的価値ということが、己が子を失うたような場合に最も痛切に感ぜられるのである。ゲーテがその・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・これだけ手のこんだ構成のなかで、漱石は偽りでかためられている家庭として自分の家庭を感じ、妻直の掴み得ないスピリットを掴もうとして憔悴する一郎の悲劇を追究しているのである。 兄の妻とならなかった頃からの直を二郎が知っているという偶然が、一・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・が妻直子に対して「女のスピリットをつかまなければ満足できない」心持に執拗に描かれているのである。 最後の「明暗」に到って、女の俗的才覚、葛藤は複雑な女同士の心理的な交錯に達して、妻のお延と吉川夫人が津田をめぐって、跳梁している。箱根の温・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫