・・・俺は自分の身のまわりを見、天井を見、スプリングを揺すってみた。 六十日目に始めてみる街、そしてこれから少なくとも二年間は見ることのない街、――俺は自動車の両側から、どんなものでも一つ残らず見ておかなければならないと思った。 麹町何丁・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・老い疲れたる帝国大学生、袖口ぼろぼろ、蚊の脛ほどに細長きズボン、鼠いろのスプリングを羽織って、不思議や、若き日のボオドレエルの肖像と瓜二つ。破帽をあみだにかぶり直して歌舞伎座、一幕見席の入口に吸いこまれた。 舞台では菊五郎の権八が、した・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・Fact and Truth. The Ainu. A Walk in the Hills in Spring. Are We of Today Really Civilised? 彼は力いっぱいに腕をふるった。そうしていつもかなりに報いら・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・The institute was founded in 1919 of which he was appointed the first Director. M. S. "Syunp-maru" (Spring-Breeze) was c・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・テエヌはバルザックをサント・ブウヴなどとちがって社会的なひろい土台で肯定して居るところは、さすがであり、そのさすがのテエヌにしろ、今日の歴史の到達点から見ると、未だ現実の真のスプリングにふれていないところが又興味津々です。テエヌはやはり受身・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・低くてスプリングもよいから、仕事してくたびれるとそのまま体をよこにする事が出来て大いに能率的であるわけです。つる公も椅子テーブルの方が疲労が少ないから大いにそれでやると云っているが、いつその道具立ては出来ることやら。 私のベッドというと・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 最後に、同志小林の業績を評価するに当って、その発展のスプリングを、抽象化された性格に置こうとする誤った見解が存在する。同志貴司の『改造』四月号における「小林多喜二の人と作品」は、この危険を最も顕著に代表するものである。同志貴司は、同志・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・三つに折りたたまれて錯綜して見える寝台の鉄の横金やところどころ錆びたニッケル色のスプリングがひろ子のいるところからよく見える。重吉がいた網走へ行こうとしてこの家を出てゆくとき、ひろ子はその寝台を折りたたんでその隅に片づけた。それなりそこで、・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・しかも、その望みの内容というか動機というか、スプリングとなっているものは、嘗てロマンチシズム時代の青年が、新しき世ひらけたり、という風な激情を身内に覚えて芸術を求めてゆくのではなく、勤め先、家庭、この社会での自身の一般的境遇に何か云わずにい・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・百円ベースの日々の辛酸が図表や統計にあらわされて、バケツは二百年に一箇、靴七年に一足と示されたとき、家々のチャブ台のまわりの歎息は公の場所にその整理された形での実感を見いだし、実感が必然の行動にうつるスプリング・ボードの一つともなってくる。・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫