・・・詩も作る、ヴァイオリンも弾く、油絵の具も使う、役者も勤める、歌骨牌も巧い、薩摩琵琶も出来るサア・ランスロットである。だからお君さんの中にある処女の新鮮な直観性は、どうかするとこのランスロットのすこぶる怪しげな正体を感ずる事がないでもない。暗・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・ 実をいうとマロリーの写したランスロットは或る点において車夫の如く、ギニヴィアは車夫の情婦のような感じがある。この一点だけでも書き直す必要は充分あると思う。テニソンの『アイジルス』は優麗都雅の点において古今の雄篇たるのみならず性格の描写・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・騎士物語が近代小説の濫觴となっているのだが、なかで有名なランスロットを主人公とした長い物語がある。その中に美しい孤独のシャロットの姫君が登場する。テニスンが物語っているとおり古い城の塔の中に孤独な生活をしているシャロットの姫はというとその古・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ヨーロッパの封建諸王の時代は中世の伝説に現われている通り、アーサー王やランスロットの物語によって伝えられているような騎士気質が支配していた。騎士時代のヨーロッパ女性の生活は、本質においてはやっぱり無権力なもので、夫や兄の命令は絶対であった。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・神農もソクラテスもカントもランスロットもエレーンも乃至はお染久松もこの問題に触れた。釈尊やイエスはこれを解いて、多くの精霊を救う。この救われたる衆生が真の人生を現わしたか。救われずして地獄の九圏の中に阿鼻叫喚しているはずの、たとえば歴山大王・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫