・・・足袋屋はさておいて食物屋の方でもチャンとした専門家があります。例えば牛肉も鳥の肉も食わせる所があるかと思うと、牛肉ばかりの家があるし、また鳥の肉でなければ食わせないという家もある。あるいはそれが一段細かくなって家鴨よりほかに食わせない店もあ・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・たでしょうけれども、しかし貴方がたはその後裔といいますか、跡続ぎ見たような子分見たような者で、その親分をこの教場で度々虐めていた事などがあるから、その子か孫に当るような人などは何とも思っておらんので、チャンと準備をして出て来るほど旨く行かな・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・そして「恨み重なるチャンチャン坊主」が、至る所の絵草紙店に漫画化されて描かれていた。そのチャンチャン坊主の支那兵たちは、木綿の綿入の満洲服に、支那風の木靴を履き、赤い珊瑚玉のついた帽子を被り、辮髪の豚尾を背中に長くたらしていた。その辮髪は、・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・そんなことを為る奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放り出してしまうんだ。それにそう無暗に連れて来るって訳でもないんだ。俺は、お前が菜っ葉を着て、ブル達の間を全で大臣のような顔をして、恥しがりもしないで歩いていたから、附・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・余り帰りが遅くなるので、秋山の長屋でも、小林の長屋でも、チャンと一緒に食う筈になっている、待ち切れない夕食を愈々待ち切れなくなった、餓鬼たちが騒ぎ出した。「そんなに云うんだったら、帳場に行ってチャンを連れて来い」 と女房たちが子供に・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ ついに野球のセコチャンが一人溺死した。 湖は、底もなく澄みわたった空を映して、魔の色をますます濃くした。「屠牛所の生き血の崇りがあの湖にはあるのだろう」 一週間ぐらいは、その噂で持ち切っていた。 セコチャンは、自分をの・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・「マーチャンお目出とう。」「マーチャンお辞儀おしなさい。このおじさん知っていますか。オホンオホンじいちゃんがネー御病気がすっかりよくおなりなすっていらしったのだからお辞儀をしなくちゃいけません。」「マーチャンはことし四つになったんでしょう、・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・自分の気に入らない意見でも、しまいまでチャンときいて、堂々とそれを討論してゆく人間にならなければなりません。 自分で考えてみる力を、守り立ててやりましょう。 自分の思いつきを大切にして、それを実現してゆく方法を、根気よく見つけてゆく・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・自然につく調子で、体をゆすぶりながら、かえしてゆくとき、鉄きゅうの上で鉄のせんべい焼道具がガチャンと鳴った。 店さきにたって、うっとりとその作業に見とれている子供には、職人たちの身ぶりと音との面白さがこの上なかった。いくら見ていても面白・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・八歳でチャンと就学した児童は三〇パーセントだった。七〇パーセントはもっとおくれていた。ロシア共和国で四年制の児童六九・五パーセントは九歳で入学している。 五ヵ年計画は三十四億七千六百ルーブリという巨額を、プロレタリア・農民文化の基礎水準・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫