・・・ この時二郎は静かに頭をあげて月を仰ぎしが急に身を起こしてかなたこなたと歩みつつ、ああ心地よき夜やと言い、皿よりパインアップルの太き一片を取りて口に入れつ、われを顧みて、なんじその杯を干してわれに与えずや。かれはわが杯を受けて心地よげに・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ 六 松木は、酒保から、餡パン、砂糖、パインアップル、煙草などを買って来た。 晩におそくなって、彼は、それを新聞紙に包んで丘を登った。石のように固く凍てついている雪は、靴にかちかち鳴った。空気は鼻を切りそうだ。彼は丘・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・われわれが再びバナナやパインアップルを貪り食うことのできるのはいつの日であろう。この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以て山海の美味に飽くことができるだろうか。昭和廿二年十月 ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・まして台湾以南の熱帯地方では椰子とかバナナとかパインアップルとかいうような、まるで種類も味も違った菓物がある。江南の橘も江北に植えると枳殻となるという話は古くよりあるが、これは無論の事で、同じ蜜柑の類でも、日本の蜜柑は酸味が多いが、支那の南・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫