・・・ ひろ子が小さかったとき、建築家であった父が、八重洲町の古い煉瓦のビルディングの中に事務所をもっていた。その事務所を、ひろ子はどんなに尊敬し、憧れ、好奇心を動かされたろう。ジリンと入口のベルを手前にひっぱって鳴らすと、爺さんの小使いが出・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 今年の冬から、日本じゅうお米が七分搗になります。ビルディングの暖房もずっと減ったり無くなったりするそうですから「寒帯ビル」も出現するそうです。そうしたら七十二歳の老人が主唱で更に「外套無し」を宣伝しはじめているというニュースが新聞に出・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・丸の内、海上ビルディング内だけでも死者数万人の見込み、東京市三分の二は全滅、加えて〔四字伏字〕、〔五字伏字〕が大挙して暴動を起し、爆弾を投じて、全市を火の海と化しつつあると、報じてある。そのどさくさ紛れに、〔四字伏字〕の噂さえ伝えられている・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫