・・・僕は彼に背を向けたまま、漫然とブック・マンなどを覗いていた。すると彼は口笛の合い間に突然短い笑い声を洩らし、日本語でこう僕に話しかけた。「僕はもうきちりと坐ることが出来るよ。けれどもズボンがイタマシイですね。」 四・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・The Yellow Book の故智にならい、ビアズレイに匹敵する天才画家を見つけ、これにどんどん挿画をかかせる。国際文化振興会なぞをたよらずに異国へわれらの芸術をわれらの手で知らせてやろう。資金として馬場が二百円、私が百円、そのうえほか・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ところが午後になると、議会から使が来て、大きなブックを出して、それに受取を書き込ませた。 門番があっけに取られたような風をして、両手の指を組み合せて、こう云った。「どうでも大臣か何かにおなりになるのではございますまいか。わたくしは議事堂・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・外国文学では流行していたアーヴィングの「スケッチ・ブック」やユーゴーの「レ・ミゼラブル」の英語の抄訳本などをおぼつかない語学の力で拾い読みをしていた。高等学校へはいってから夏目漱石先生に「オピアム・イーター」「サイラス・マーナー」「オセロ」・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・いつだったか、先生がどこかから少しばかりの原稿料をもらった時に、さっそくそれで水彩絵の具一組とスケッチ帳と象牙のブックナイフを買って来たのを見せられてたいそううれしそうに見えた。その絵の具で絵はがきをかいて親しい人たちに送ったりしていた。「・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・ed after him by Prof. Fujiwhara, was described not in any of his papers, but in his elementary text-book of meteorology.・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・一つの風変りな形で、しかも実際的なブック・レビューをして見たら面白くもあるしためにもなるだろうと思ったきっかけはそこにある。そのブック・レビューの方法というのは、この一冊の「科学の学校」を土台として、それぞれの項目について私たちの身近にある・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・テキスト・ブック、としてでなく、ローマ字で、小説も書く気には、到底なれません。落付いて考えて見ると或る国民を代表する程の文学者は、知的、感情的両方面に、自ら最もよく、その国語を使った者ではありますまいか。 国語の性質、普及の範囲などと云・・・ 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・ 道徳再武装運動は、かつてオックスフォード運動とよばれ、ブックマン博士という人物が中心である。元来は一つの宗教運動で、公衆の前で自分の罪を告白し悔い改めることを眼目としたが、告白の内容は性的なものが多く、オックスフォード大学からの抗議で・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ アメリカの最新型のスタイル・ブックが紹介されて、そこには見事なイヴニング・ドレスが華やかな裾を拡げて示されていました。また日本の平面的な顔ではとても冠りこなすことの出来ない、風変りな大帽子などの新型も示されていました。それらが、わたく・・・ 宮本百合子 「自覚について」
出典:青空文庫