・・・あるいは花火のようなものに真綿の網のようなものを丸めて打ち上げ、それが空中でぱっとからすうりの花のように開いてふわりと敵機を包みながらプロペラにしっかりとからみつくというようなくふうはできないかとも考えてみる。蜘蛛のあんなに細い弱い糸の網で・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・あるいは花火のようなものに真綿の網のようなものを丸めて打ち上げ、それが空中でぱっと烏瓜の花のように開いてふわりと敵機を包みながらプロペラにしっかりとからみ付くというような工夫は出来ないかとも考えてみる。蜘蛛のあんなに細い弱い糸の網で大きな蝉・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・人差指に雁首を引掛けてぶら下げておいてから指で空中に円を画きながら煙管をプロペラのごとく廻転するという曲芸は遠心力の物理を教わらない前に実験だけは卒業していた。 いつも同じ羅宇屋が巡廻して来た。煙草は専売でなかった代りに何の商売にもあま・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・と考えて見ても、もう思い出せなかった程の、つまりは飛行中のプロペラのような「速い思い」だったのだろう。だが、私はその時「ハッ」とも思わなかったらしい。 客観的には憎ったらしい程図々しく、しっかりとした足どりで、歩いたらしい。しかも一つ処・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・低空飛行をやっていると見えて、プロペラの轟音は焙りつけるように強く空気を顫わし、いかにも悠々その辺を旋回している気勢だ。 私は我知らず頭をあげ、文明の徴証である飛行機の爆音に耳を傾けた。快晴の天気を語るように、留置場入口のガラス戸にペン・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫