・・・ 社会と思想とが大きい波をかぶりつつ経て来た日本のこの数年間の生活の思い出を、あたり前の文学上のもの云いで語らず、こういう鬼や地獄をひき出して描き出すこの作者のポーズ、スタイルというようなものと、今日大陸文学懇談会とかいうところの一・・・ 宮本百合子 「観念性と抒情性」
・・・交換学生としてイタリーへ一人の日本の若い女性が派遣される誇りは、新潟から売られて東京へ出て来る三十人の少女の心が理解するには余り縁の遠い文化の一ポーズなのである。〔一九三六年十二月〕 宮本百合子 「暮の街」
・・・この頃の社会の事情は女としての困難解決の方向を知っているひとでも目前に方法がつかないような特殊の苦痛がありますが、どうかその苦痛にまけたことを一つの自嘲的なポーズとせず日々の努力をのぞみます。〔一九三七年二月〕・・・ 宮本百合子 「現代女性に就いて」
・・・『群像』十二月号の創作月評座談会で、林房雄が、深刻ぶり、ということについて語っている気分、ポーズに、はっきりあらわれている。自己陶酔と独善にうるさい覚醒をもとめてやまない近代精神、理性へのよび声そのものが、この種類の作家たちには気にそまない・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・吉田内閣がいくらかでも、民主的な要素の加わった憲法を制定して、自分達の政治の方向が民主的であるかのようにポーズすること、これは保守的な内閣にとってかくことのできない一つの仕事でした。憲法審議のための委員会に一人二人の婦人代議士が出席していた・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 現実は豊饒、強靭であって、作家がそれに皮肉さをもって対しても、一応の揶揄をもって対しても、大概は痛烈な現実への肉迫とならず、たかだか一作家のポーズと成り終る場合が非常に多い。作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・そして、この不安の文学の主唱者たちは、不安をその解決の方向にむかって努力しようとする文学において唱えず、従来人々の耳目に遠かったシェストフなどを引き出して、不安の裡に不安を唱えて低徊することをポーズとしたのであった。 河上徹太郎、小林秀・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・また、女自身が、兵士への慰問というと、たちまちある型で女らしさと考えられている感情の習慣的な面だけで、少女小説的に受動的にだけポーズするのも、まことにたよりない。そういう女の甘さや感傷が、自身は暖い炉辺で慰問靴下をあみつつ、美食家のエネルギ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・私たちは更に時代的・性格的ポーズのつよい作家ジイドの諸矛盾の内から独自性にふれて分析し、批評の本質の真理を理解しようとする要求を禁じ得ない。 アンドレ・ジイドは一九三六年六月、彼より一つ年上の輝しい僚友マクシム・ゴーリキイの病篤しと・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・不安への批判の精神を否定した出発は、窮局に於て人間精神が不安に翻弄される結果となり、不安を自己目的として不安する状態を、精神の高邁とするようなポーズをも生じた。人間のモラルを現実とのとりくみの間にうち立ててゆくことが目指されずに、観念の中で・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫