・・・は名前からしてハイカラだが、店そのものもエキゾチックな建築で、装飾もへんにモダーンだから、まるで彼に相応わしくない。赤暖簾のかかった五銭喫茶店へはいればしっくりと似合う彼が、そんな店へ行くのにはむろん理由がなくてはかなわぬ。女だ。「カスタニ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・この辺の昔のままの荒川沿いの景色がこうしたモダーンな道路をドライヴしながら見ると、昔とはまた全く別な景色に見えるから妙である。道路が魔法師の杖のように自然を変化させるのである。 志木の近くの水門で釣をしている人がある。運転手が橋の上で車・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・苦労にやつれた姉娘とほがらかでわがままな末のモダーン娘との中に立つ姉妹思いのお染の役がオリジナルな表情の持ち主で引き立っている。そうして端役に出る無表情でばかのような三人の門付け娘が非常に重大な「さびしおり」の効果をあげているようである。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・それからまた県土木技師の設計監督によるモダーン県道を徳川時代の人々が闊歩したり、ナマコ板を張った塀の前で真剣試合が行なわれたりするのも考えものであるが、これはやむを得ないことかもしれない。 これに比べて現代を取り扱った邦画はいくらか有利・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
ある科学者で、勇猛に仕事をする精力家としてまた学界を圧迫する権威者として有名な人がある若いモダーンなお弟子に「映画なんか見ると頭が柔らかくなるからいかん」と言って訓戒したそうである。この「頭が柔らかくなる」というのはもちろ・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・そうした、今から見れば古典的な姿が当時の大学生には世にもモダーンなシックなものに見えたのであろう、小杉天外の『魔風恋風』が若い人々の世界を風靡していた時代のことである。 大正の初年頃外房州の海岸へ家族づれで海水浴に出かけたら七月中雨ばか・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・二つ並んで建ちかかっている大ビルディングの鉄骨構造をねらったピントの中へ板橋あたりから来たかと思う駄馬が顔を出したり、小さな教会堂の門前へ隣のカフェの開業祝いの花輪飾りが押し立ててあったり、また日本一モダーンなショーウィンドウの前にめざしの・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・もっともそのころでもモダーンなハイカラな人もたくさんあって、たとえば当時通学していた番町小学校の同級生の中には昼の弁当としてパンとバタを常用していた小公子もあった。そのバタというものの名前さえも知らず、きれいな切り子ガラスの小さな壺にはいっ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。モダーンな日記帳にはその年の干支など省略してあるのもあるくらいである。実際丙午の女に関する迷信などは全くいわれのないことと思われるし、辰年には火事や暴風が多いというようなこともな・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・たぬきもだいぶモダーン化したのである。このような現象でも精細な記録を作って研究すれば気象学上に有益な貢献をする事も可能であろう。「天狗」や「河童」の類となると物理学や気象学の範囲からはだいぶ遠ざかるようである。しかし「天・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
出典:青空文庫