・・・ 工場では、モーターや、ベルトや、コムベーヤーや、歯車や、旋盤や、等々が、近代的な合奏をしていた。労働者が、緊張した態度で部署に縛りつけられていた。 吉田はその工場に対してのある策戦で、蒸暑い夜を転々として考え悩んでいた。 蚊帳・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ 一太は立ちどまって、善さんが南京袋をかついで来ては荷車に積むのや、モーターで動いている杵を眺めた。「今日はどこだい」「池の端」「ふーむ……やっこらせ! と、……洒落てやがんな、綺麗な姐さんがうんといたろう?」「ああいた・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・隣の奥さんが女のおくれ毛止めを発明したとかで、門には石柱が立っているその家の庭の方では絶えずモーターの音がしているし、エナメルの匂いが苦しく流れて来た。 どの家へ移った原因にも、みんな夫々の生活の時代が語られているのだけれど、その老松町・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・普通の自動車にレントゲン装置と、モーターと結びついて動く発電機を取りつけたもので、この完全な移動X光線班は一九一四年八月から各病院を廻り始めた。フランスの運命を好転させた歴史的な戦いであるマルヌの戦闘で、故国のために傷ついた人々は、パリへ後・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・四銭 第十二工場 製カン、鋳物、ガス溶接屋 二〇九名 第八工場 変圧器製造 六五〇名 第七工場 直流、交流発電キ 電キ機関車 五〇〇 第五工場 小型モーター セン風機 家庭器具 四五〇・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・品川沖へ海苔とりに出たお爺さん漁師がモーターが凍ったところへいろいろ網にひっかかったりして不幸にも凍死したという話があります。私はゆうべも仕事をしていたがあまり寒いので寝てしまいました。寝ながら、さむいといってもここには火鉢があるということ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・米のことが皆の心配の種になって、来月から七分搗と云われていた時、この米屋の前を通ると夜十二時頃でも煌々と電燈の光を狭い往来に溢らせていた。モーターが唸って、小僧は真白けになって疲れた動作で黙りこくって働いていた。ズックの袋に入れて札をつけた・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・風にもめげず四十幾つかの汲出機が一つのモーターで規則正しく動いているのが自動車の上からも見える。―― 自動車が一つの角を曲って、急にさっぱりした住宅区域に入った時、自分は思わず頬が温い空気にふれたように感じた。 自動車の通る道路をは・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 空気がゴミやガスでよごれている職場では、仕事の間にもきまって何分かはモーターを止めて、サッと窓をひろく開け、一同そろって、 一! 二! 三! 四! 深呼吸をしなければならない。 もし、坐ったり、腰かけたっきりで・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・唸って震えている、巨大なモーターの周囲は油さしやその他にごく必要な部分だけを露出して強い金網で覆ってある。調帯も、万一はずれた時下で働いている者に怪我させそうな場所は鉄板の覆いがかかっている。 更衣所で、男の着る作業服に着かえ、足先を麻・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫