・・・ 初期のロマンチストを目して、笑うことはできぬ。英国の山川詩人が、故郷の自然を愛したのは、清純な魂によってである。スコットランドの素朴な風景や、居酒屋に集る人々等は、バーンズによって、永久に芸術に生かされている。 北方派の画家等にし・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・ 雲に思いを寄せ、追懐と讃美を恣にしたものは、いくばくの放浪者や、ロマンチストだけではなかった。シェレーや、ボードレールや、レヴィートフのような、詩人だけではなかったのである。 さらに、私は、雲に対して、驚異を感ずるのだった。いかに・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・よほどのロマンチストでない限り、一と目で恋には落ちぬ。二た目でそれほどでないと思えば憧憬は冷却する。自分で、自分を溺らすのが一番いけない。それほどでもない異性を恋して、大きな傷を受けるほど愚かしいことはない。 ときとして、性格によっては・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・野中先生は少しロマンチストですからね。いつか僕と議論した事がありました。野中先生のおっしゃるには、この世の中にいかにおびただしく裏切りが行われているか、おそらくは想像を絶するものだ、いかに近い肉親でも友人でも、かげでは必ず裏切って悪口や何か・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・を主題とするロマンチストはいないにしろ、彼等は「働いている俺達」の豊富な生活面について具体的にうたわず、「建設される社会主義」とか「共産主義がそれを建てたトルクシブ!」とかいう観念的な、文学の美観と思われてるものにとびついてしまう傾向がある・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・林房雄氏等は日本のロマンチストとして「抽象的な情熱」に従って王朝文学を読むと言っているのであるが、王朝の文学に当時の民衆は何と描かれているであろうか。「もののあわれ」を知るみやびやかな上流人に対して「むくつけき賤山がつ」として見られており、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・欲するがままに行為せんとする力はもたず、ロマンチストと我から称する横光氏は、「可能の世界を創造」する文筆の幻の範囲でのロマンチストであろう。そして、これまでの通俗小説が偶然にたよって成立っていたということにそれなりに縋って、近代人の必然は偶・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・慶子という少女の青春の美をめぐって軽井沢風景の間に描かれる作者の幻想の世界から、最後に作者自身が飛び出し、「信念のないロマンチストは皆ファンティジストに過ぎず、信念のないリアリストは皆センチメンタリストに過ぎぬ」と結び、それによって逆効果を・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 知られているとおり、フランスのロマンチスト達は、人類の大きい理想をめざして闘われた筈の大革命が、ブルジョア階級の擡頭によって、成上り者の専断、金銭万能の社会となった現実の「若き失望のカリカチュア」に反撥して、芸術運動の中に、ブルジョア・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ ところで、一般に今日そういう気運が醸し出されているとして、そう云いそれを行う作家たちは、いかなロマンチストでも簡単に自己蝉脱は出来ないのであるから、或る意味ではやはり元の作家A・B・C氏であることは避け難い現実としなければならない。そ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫