・・・ 坊様、眉も綿頭巾も、一緒くたに天を仰いで、長い顔で、きょとんとした。「や、いささかお灸でしたね、きゃッ、きゃッ、」 と笑うて、技師はこれを機会に、殷鑑遠からず、と少しく窘んで、浮足の靴ポカポカ、ばらばらと乱れた露店の暗い方を。・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・「ちえっ、外国人の名前だと、みんな一緒くたに、聞いたような気がするんだろう? なんにも知らない証拠だ。ガロアは、数学者だよ。君には、わかるまいが、なかなか頭がよかったんだ。二十歳で殺されちゃった。君も、も少し本を読んだら、どうかね。なん・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・例えば、剣道の試合のとき、撃つところは、お面、お胴、お小手、ときまっている筈なのに、おまえたちは、試合も生活も一緒くたにして、道具はずれの二の腕や向う脛を、力一杯にひっぱたく。それで勝ったと思っているのだから、キタナクテね。」 ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 悌が手脚を一緒くたに振廻してそのあとを追っかけた。けろりとして戻って来ながら、「とてもすてきだよ」 忠一は篤介にいった。「やって御覧、海が上の方に見えるよ」「どーれ」 篤介は徐ろに帽子を耳の上まで引下げ、腕組みをし・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ みじかい袂に、袂糞と一緒くたに塩豆を入れたりして居る下等な姑から、こんな小言はききたくないと云う様な気にはなっても、気の弱い、パキパキ物の云えないお君は、只悲しそうな顔をして、頭をゆすったり夜着を引きあげたりするばかりであった。 ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・嘗て柳行李のなかから、紺絣の着物や、目醒し時計と一緒くたに出て来たガラスのペン皿は、わったりしたくないと思ってつかっている。 琉球のある女のひとがくれた一対の小さい岱赭色の土製の唐獅子が、紺色の硯屏の前においてある。この唐獅子は、その女・・・ 宮本百合子 「机の上のもの」
・・・その上、まだ色彩の足りないのを恐れるかのように、食卓の一つ一つに、躑躅、矢車草、金蓮花など、一緒くたに盛り合わせたのが置いてある。年寄の、皺だらけで小さい給仕が、出て来た。空腹ではあったし、料理は決して不味くはなかった。けれども、何といおう・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ そして、彼のいい顔の上には、しん底からの微笑と啜泣が一緒くたになって現われた。「はあ、真当なこった。 若けえもんあ死なさんにぇわ……なあ……」 今までただの一度でも感じたことのない歓喜と愛情が、彼の胸には焔のように燃え上っ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 屋根にトタン板を並べた鋳鉄工作所から黒い汚水と馬糞が一緒くたに流れ出して歩道の凹みにたまっている。 内部は何があるのか解らぬ古コンクリート塀がある。 からからした夏の太陽ばかりがこれらゆがんで小さい人間のいろんな試みの上に高く・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・真個に一生失ってはならない感激と独りよがりとを、ごたごたにし、人生に対する尊い愛、期待と、空想、我ままを一緒くたに持って、正面から堂々と、人生の或る扉を叩いたのでした。 顧みて、微笑を禁じ得ません。愛らしき滑稽! 然し、自分の手で開いて・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫