・・・れども、できるだけ軽く諸君の念頭に置いてもらって、そうして、その地獄の日々より三年まえ、顔あわすより早く罵詈雑言、はじめは、しかつめらしくプウシキンの怪談趣味について、ドオデエの通俗性について、さらに一転、斎藤実と岡田啓介に就いて人物月旦、・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ 私の寝ながらの空想は一転する。 ふいと、次のような短篇小説のテーマが、思い浮んで来たのである。この小説には、もはや、あの役人は登場しない。もともとあの役人の身の上も、全く私の病中の空想の所産で、実際の見聞で無いのは勿論であるが、次・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・草取りから一転して、長き脇指があらわれた。着想の妙、仰天するばかりだ。ぶちこわしである。破天荒である。この一句があらわれたばかりに、あと、ダメになった。つづけ様が無いのである。去来ひとりは意気天をつかんばかりの勢いである。これは、師の芭蕉の・・・ 太宰治 「天狗」
・・・そうしてその一転ごとにだんだんにそうして不可避的に最後のクライマックスに近づいて行くのである。 太鼓の描くこの主題の伴奏としてはラッパのほかに兵隊の靴音がある。これがある時は石畳みの街路の上に、ある時は岩山の険路の上にまたある時は砂漠の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえば場面が一転して、海上から見た島山の美しい景色が映写された瞬間にわれわれの頭には「どこだろう」という疑問が浮かぶ。ところがこれに対する説明の録音は気取った調子で「千島にも春は来ました」とそれっきりである。千島の何島のどの部分の海岸をど・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ これが二十年前のこういう種類の飲食店だと、店の男がもみ手をしながら、とにかく口の先で流麗に雄弁なわび言を言って、頭をぴょこぴょこ下げて、そうした給仕女をしかって見せるところであろうが、時代の一転した一九三五年の給仕監督はきわめて事務的・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・分の原稿をこしらえるのだが、自分は知名の文士の誰々の種の出所をちゃんと知っている、と云ったようなことを書きならべ、貴下の随筆も必ず何か種の出所があるだろうというようなことを婉曲に諷した後に、急に方向を一転して自分の生活の刻下の窮状を描写し、・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・かえってずっと古い昔には民衆的であったかと思われる短歌が中葉から次第に宮廷人の知的遊戯の具となりあるいは僧侶の遁世哲学を諷詠するに格好な詩形を提供していたりしたのが、後に連歌という形式から一転して次第にそうした階級的の束縛を脱しいわゆる俳諧・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・とんど常に低音で弱い感じが支配しているように思われる。「家普請を春のてすきにとり付いて」の静かな低音の次に「上のたよりにあがる米の値」は、どうしても高く強い。そうして「宵の内はらはらとせし月の雲」と一転しているのは一見おとなしいようでもある・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・勢い極まって其処まで行ったんだが、……これが畢竟一転する動機となったんだ。 で、私はこんな事を考えた。――斯ういう風に実例を眼前に見て、苦しいとか、楽しいとか云う事は、人によって大変違う。例えば私が苦しいと思う事も、其女は何とも思わんか・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫