・・・ 自体拙者は気に入らないので、頻りと止めてみたが、もともと強情我慢な母親、妹は我儘者、母に甘やかされて育てられ、三絃まで仕込まれて自堕落者に首尾よく成りおおせた女。お前たちの厄介にさえならなければ可かろうとの挨拶で、頭から自分の注意は取・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・遊客も芸者の顔を見れば三弦を弾き歌を唄わせ、お酌には扇子を取って立って舞わせる、むやみに多く歌舞を提供させるのが好いと思っているような人は、まだまるで遊びを知らないのと同じく、魚にばかりこだわっているのは、いわゆる二才客です。といって釣に出・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・『嬉遊笑覧』や『松屋三絃考』を見ただけでもたくさんな文献が並べ立ててあるが、いっこうに要領を得難い。永禄あるいは文禄年間に琉球から伝わった蛇皮線を日本人の手で作りかえた、それがだんだんポピュラーになったものらしい。それからシナの楽器の阮咸と・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・七輪、水瓶、竈、その傍の煤けた柱に貼った荒神様のお札なぞ、一体に汚らしく乱雑に見える周囲の道具立と相俟って、草双紙に見るような何という果敢い佗住居の情調、また哥沢の節廻しに唄い古されたような、何という三絃的情調を示すのであろう。先生はお妾が・・・ 永井荷風 「妾宅」
伝統的な女形と云うものの型に嵌って終始している間、彼等は何と云う手に入った風で楽々と演こなしていることだろう。きっちりと三絃にのり、きまりどころで引締め、のびのびと約束の順を追うて、宛然自ら愉んでいるとさえ見える。 旧・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
出典:青空文庫