・・・庶民は、何が下司であるということは知っているものである。ものには程があるということをわきまえず自分の卑屈さを知らない親王が、絶対主義の裏がえしである闊達さで、「トア・エ・モア」という文化人のダンス・パーティーである流行作家の夫人に「さよなら・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ 何でもない様でありながら、こんな下司な取りあわせをするかと思うとやたらに、かんしゃくが起った。 貧亡(人の多い、東北らしい事だ! こんな事も思った。 娘 娘だと思われる娘を私は此処に来てから一人も見ない・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 若し私達がそれをモデルにした処がいかにも下司な馬鹿馬鹿しい滑稽ほか出されませんからねえ。 そんな事を書くには年も若すぎるし第一あんまり幸福すぎますもの。」 千世子はいかにも研究的な様子をして云った。「ほんとに私共は苦労しら・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 貸すための家に出来て居るんだから人が借りるのに無理が有ろう筈もないけれども、なろう事ならあんまり下司張った家族が来ません様にと願って居る。 前に居た人達は、相当に教養があるもんだから、静かな落付きのある生活をして居たが、いつだった・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・おれは下司ではあるが、御扶持を戴いてつないだ命はお歴々と変ったことはない。殿様にかわいがって戴いたありがたさも同じことじゃ。それでおれは今腹を切って死ぬるのじゃ。おれが死んでしもうたら、おぬしは今から野ら犬になるのじゃ。おれはそれがかわいそ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫