・・・ 僕も、――今まで夢中になっていた女を実際通り悪く言うのは、不見識であるかのように思ったが、――それとなく分るような言葉をもって、首ッたけ惚れ込んでいるのではないことを説明し、女優問題だけは僕の事業の手初めとして確かにうまく行くように言・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・そうかと思うと一方で立体派や未来派のような舶来の不合理をそのままに鵜呑みにして有難がって模倣しているような不見識な人の多い中に、このような自分の腹から自然に出た些細な不合理はむしろ一服の清涼剤として珍重すべきもののような感がある。 鳥の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・果して日本の画家があの位の刺激に挑撥されて人工的に向上したとすれば、彼らは文部省の御蔭で腕が上がると同時に、同じく文部省の御蔭で頭が下がったので、一方からいうと気の毒なほど不見識な集合体だと評しなければならない。 余が某氏の言に疑を挟む・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・この論法からいうと、芸術家が昔の芸術を後世に伝えるために生きているというのも、不見識ではあるが、やっぱり必要でしょう。ことに旧芝居や御能なんかはいい例です。絵画にもそれがある。私は狩野元信のために生きているので、決して私のためには生きている・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟子として着実に努力せられんことを望む。 ――例外の一と二とに現われた二つの道が日本画を救い得るかどうか。それは未来にかかった興味ある問題である。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫