・・・で、終には、親の世話になるのも自由を拘束されるんだというので、全く其の手を離れて独立独行で勉強しようというつもりになった。 が、こうなると、自分で働いて金を取らなきゃならん。そこであの『浮雲』も書いたんだ。尤も『浮雲』以前にも翻訳などは・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・そんな風にしていましたから、人の世話ばかり焼くイソダンの人達も、わたくしの所へあなたのいらっしゃるのをなんとも申さないで、あれは二親の交際した内だから尋ねて往くのだと申していましたのです。 しかしわたくしがそんな気でいましたから、あなた・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・一面の田は稲の穂が少し黄ばんで畦の榛の木立には百舌鳥が世話しく啼いておる。早桶は休みもしないでとうとう夜通しに歩いて翌日の昼頃にはとある村へ着いた。其村の外れに三つ四つ小さい墓の並んでいる所があって其傍に一坪許りの空地があったのを買い求めて・・・ 正岡子規 「死後」
・・・「あなたはどこのお方だか知らないが、これからわしの仕事にいらないお世話をして貰いたくないもんですな。」「いや、わたしはね、山羊に遁げられてそれをたずねて来たら、あの子どもさんが連れて来ていたもんだからお礼を云っていたんです。」「・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ ドン国立煙草工場には自慢の托児所があり二百七十人ぐらいの子供の世話をやいている。私が行ったとき、托児所の庭の青々と茂った夏の楡の樹の下にやや年かさの女が三つばかりの男の子を抱き、金髪の若々しい母親が白い服を着せた生れたばかりの赤児を抱・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ と、附いて来た佐藤が、知れ切った事を世話焼顔に云った。「そう」 若先生に見て戴くのだからと断って、佐藤が女に再び寝台に寝ることを命じた。女は壁の方に向いて、前掛と帯と何本かの紐とを、随分気長に解いている。「先生が御覧になる・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・「お前とこで世話になろうと思うているがの、一つ頼んでくれんかなア?」「お前、俺とこへ来たのか?」「うむ、医者めが、もたん云いさらしてさ。」「それで俺とこへ転げ込んだのやな?」「お前、酒桶からまくれ落って、土台もうわやや。・・・ 横光利一 「南北」
・・・何羽いるか知れない程の鶏の世話をしている事もある。古びた自転車に乗って、郵便局から郵便物を受け取って帰る事もある。 エルリングの体は筋肉が善く発達している。その幅の広い両肩の上には、哲学者のような頭が乗っている。たっぷりある、半明色の髪・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫