・・・「やあ、中二階のおかみさん。」 行商人と、炬燵で睦まじかったのはこれである。「御亭主はどうしたい。」「知りませんよ。」「ぜひ、承りたいんだがね。」 半ば串戯に、ぐッと声を低くして、「出るのかい……何か……あの、湯・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 梅ちゃん、先生の下宿はこの娘のいる家の、別室の中二階である。下は物置で、土間からすぐ梯子段が付いている、八畳一間ぎり、食事は運んで上げましょというのを、それには及ばないと、母屋に食べに行く、大概はみんなと一同に膳を並べて食うので、何を・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・水仙の一と株に花床が尽きて、低い階段を拾うと、そこが六畳の中二階である。自分が記念に置いて往った摺絵が、そのままに仄暗く壁に懸っている。これが目につくと、久しぶりで自分の家に帰ってきでもしたように懐しくなる。床の上に、小さな花瓶に竜胆の花が・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ 池を隔てて池の間と名のついたこの小座敷の向かい側は、台所に続く物置きの板蔀の、その上がちょっとしゃれた中二階になっている。 あのころの田舎の初節句の祝宴はたいてい二日続いたもので、親類縁者はもちろん、平素はあまり往来せぬ遠縁のいと・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
出典:青空文庫