・・・―― 作者は、この社会に階級の存在するという事実や、自分が生れてそこに育った中産階級というものの歴史的な本質について当時は知っていなかった。したがって、「伸子」は、階級的意識によって分析批判されていない。けれども、こんにち日本がやっと人・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ヨーロッパの中産階級はそのころから急速に経済能力の不安を感じはじめていた。特権階級の者は、当時なお強固な基礎を失っていなかったし、労働者階級は失業や賃下げに対して闘って、労働して生きてゆく大衆としての力をもっている。ノッティンガムの礦夫の息・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・にあるすべては、それらの問題をわりきってしまった者として生きる作家としての自分、などという風な高邁な気風に立って、蜿蜒としてよこたわる中産階級の崩壊の過程と人間変革のテーマを扱う能力は文学的にないし、人間的にない。わたしは、これから担ぎ出し・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この船出は、地理上の旅行であるばかりでなく、フランス中産階級の生活の中でも特別な生い立ちをもったジイドにとっては全く幼年時代からの訣別であった。アフリカという未知の地方への出発は、ジイドにとってはとりも直さず未知な生活、未知な自己の個性、未・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 第二次大戦後の世界は、一層深い傷と破滅を経験して、中産階級の没落はもとより民族そのものの自立性さえもファシズムの暴力に対する抵抗の過程でおびやかされました。しかも日本・イタリー・ドイツのように三国連盟して、東洋と西洋の平和を攪乱したフ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 当時、フランスは、将に「中産階級が歴史の舞台へ決定的にのり出して来た」一大時代であった。工業が発達し、商業が自由になり「ナポレオンによって全ヨーロッパに及ぼされた国富の新しい配分が、特にフランスにおいてその実を結びはじめ」ると同時に、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・この長篇は日本の中産階級の崩壊の過程と、その旧い歴史の中から芽ばえのびてくる次代の精神としての女主人公の階級的人間成長を辿りながら、一九二七―三〇年ごろのソヴェト同盟の社会主義の達成とするどく対比されるヨーロッパ諸国のファシズムへの移行など・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 封建のしきたりと無権利とに苦しんでいた勤労大衆、中産階級、知識人、婦人などの生活は実にこの勤労階級を主軸として進展する日本の新民主主義の完成がなければ、幸福は決して約束されない。婦人の解放などは実現しない。 婦人民主クラブは、日本・・・ 宮本百合子 「三つの民主主義」
・・・芸術論の中に云われているとおり、芸術はあるものを写すものではなくって、あるべきものを描き出すのであるとすれば、氏の芸術が中産階級の生活を描いた時、その思想や感情が現在あるもののみを写す限度に止るようなことは、決して作者としての自己に許し得な・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・この原因は主として戦争によって女子人口が増加したことと、それまで生活の安定をもっていた中産階級の経済基礎がくずれ、勤労する男女が多くなったことにあった。ジェーン・オースティンの小説や「嵐ケ丘」でブロンテが書いたような、イギリスの中産階級の人・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫