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・・・扨は何処までも物惜みなされて、見す見す一党の利になることをば、御一分の意地によって、丹下右膳が申す旨、御用い無いとかッ。」 目の色は変った。紫の焔が迸り出たようだった。怒ったのだ。「…………」「然程に物惜みなされて、それが何の為・・・
幸田露伴
「雪たたき」
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・・・ あの顔に向う疵では、間の抜けた丹下左膳だねと笑いながら、すぐ註文の薬品その他を揃える仕度にとりかかった。 今年四つになる男の児がいて、その児は河北の夜に倒れたものの又従弟とでもいうつづきあいにあたっている。慰問袋を女が三人あつまっ・・・
宮本百合子
「くちなし」