・・・それはこんどの憲法を見てもよくわかることですけれども、ああいう「主権在民」の中途はんぱな扱いかたは、私どもが民主を求めて生きている感情に直接影響してきています。 民主主義憲法といいながら、政府は五月一日にそれが実効を発生することを避けま・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 人間になったものとしての日本の主権者一家に、みんなのもつ暖い感情があるとすれば、それは、決して頼りになる存在としての、しっかりした男同士の近親感ではない。日本の人民が戦争に「使用」されることをことわるような重大なときに、相談のあいてに・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・「家族のものに対しては絶対の主権者で、私達に対しては又、熱心な教育者で」あった。髪なども長くして、それを紫の紐で束ねて後へ下げ、古い枝ぶりの好い松の樹が見える部屋で、幼い藤村に「大学」や「論語」の素読を教えた。その父の案で、藤村は僅か九歳の・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・天皇というものの全く特殊な規定が、この主権在民といわれる憲法の中にある日本の封建的な尾は、伝統の中に巨龍の尾のようにのこっている。そしてこの尾のうろこのかげにかくれて今日なお国民を破滅させた軍閥ののこりと反動の力がうごめいている。 そし・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・社会党が、勤労人民の味方のように演説をしながら、勤労人民の苦痛の原因となっている旧い日本の君主に主権のある政治の形をどこまでも守ろうとしていて、それが所謂「民意」であるかのように見せているわけもこの表を見ると、全く肯けて来る。社会党九二名中・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・しかし主権者として、わたしたちと同じ人権に立って存在している正常な人格なら、天皇が侵略戦争について責任無しなどということはない筈です。責任なし、ということを宣言されてたとき、彼はたいへん喜んで、よろしくお礼をことづけてくださいといっていまし・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・笑いは決して諷刺にまでたかまっていなかったし、演出者の力点も、アテナの主権とそのしきたりに反抗する若い二組という面で強調されていた。つっこんで云えば、そういう政治権力に抵抗したあの時代の若い人々の自然発生の自覚は、同時にあんな魔法でひっぱり・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
新聞に、憲法改正草案が発表されたとき、一番奇妙に感じたことは、「主権在民」と特別カッコの別見出しがつけられていたのに、天皇という項があって、その唯一人の者が九つの大権を与えられていることであった。 短い小説一つにしろ、・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・憲法そのものの大きい矛盾がそれを明らかに示しているように。主権在民の憲法に天皇という特種な一項目があって、新聞では大臣も天皇も公僕であるといいながら身分上、経済上そして政治上の特権は十分たもたれているという事実は、日本の民主的生活の道がどん・・・ 宮本百合子 「明瞭で誠実な情熱」
憲法が改正された。すべての日本人は、男女、身分の差別なく法律の前には平等であるという立て前による憲法が出来た。民主憲法といわれる根拠は、その前文に、主権は人民に在る、といわれていることである。すべての人民は働く権利をもって・・・ 宮本百合子 「メーデーぎらい」
出典:青空文庫