・・・こっちの善い所は勿論了解してくれるし、よしんば悪い所を出しても同情してくれそうな心もちがする。又実際、過去の記憶に照して見ても、そうでなかった事は一度もない。唯、この弟たるべき自分が、時々向うの好意にもたれかゝって、あるまじき勝手な熱を吹く・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・けれども含芳の顔を見た時、理智的には彼女の心もちを可也はっきりと了解した。彼女は耳環を震わせながら、テエブルのかげになった膝の上に手巾を結んだり解いたりしていた。「じゃこれもつまらないか?」 譚は後にいた鴇婦の手から小さい紙包みを一・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・「いえ手前でございますならまだいただきたくはございませんから……全くこのお話は十分に御了解を願うことにしないとなんでございますから……しかし御用意ができましたのなら……」「いやできておっても少しもかまわんのです」 父は矢部の取り・・・ 有島武郎 「親子」
・・・で、私は母や弟妹に私の心持ちを打ち明けた上、その了解を得て、この土地全部を無償で諸君の所有に移すことになったのです。 こう申し出たとて、誤解をしてもらいたくないのは、この土地を諸君の頭数に分割して、諸君の私有にするという意味ではないので・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・私は今論者の心持だけは充分了解することができる。しかしすでに国家が今日まで我々の敵ではなかった以上、また自然主義という言葉の内容たる思想の中心がどこにあるか解らない状態にある以上、何を標準として我々はしかく軽々しく不徹底呼ばわりをすることが・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・しかし、その事はけっしてその婦人がよく日本を了解していたという証拠にはならぬではなかろうか。 詩は古典的でなければならぬとは思わぬけれども、現在の日常語は詩語としてはあまりに蕪雑である、混乱している、洗練されていない。という議論があ・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・で、その、ちょっとあらかじめ御諒解を得ておきたいのですが、お客様が小人数で、車台が透いております場合は、途中、田舎道、あるいは農家から、便宜上、その同乗を求めらるる客人がありますと、御迷惑を願う事になっているのでありますが。」「ははあ、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 家業がら了解は早い。「その向の方なら、大概私が顔見知りよ。……いいえ、盗賊や風俗の方ばかりじゃありません。」「いや、大きに――それじゃ違ったろう。……安心した。――時に……実は椎の樹を通ってもらおうと思ったが、お藻代さんの話の・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ドウしてコンナ、そこらに転がってる珍らしくもないものを叮嚀に写して、手製とはいえ立派に表紙をつけて保存する気になったのか今日の我々にはその真理が了解出来ないが、ツマリ馬琴に傾倒した愛読の情が溢れたからであるというほかはない。私の外曾祖父とい・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・それ故、一応隣室の諒解を求める必要がある。けれど、隣室の人たちはたぶん雨戸をあけるのを好まないだろう。 すっかり心が重くなってしまった。 夕暮近く湯殿へ行った。うまい工合に誰もいなかった。小柄で、痩せて、貧弱な裸を誰にも見られずに済・・・ 織田作之助 「秋深き」
出典:青空文庫