・・・噂に依れば、このごろ又々、借銭の悪癖萌え出で、一面識なき名士などにまで、借銭の御申込、しかも犬の如き哀訴歎願、おまけに断絶を食い、てんとして恥じず、借銭どこが悪い、お約束の如くに他日返却すれば、向うさまへも、ごめいわくは無し、こちらも一命た・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・ 私は象戯の駒を箱へしまいながら、 ――他日、勝負をつけましょう。 これが深田氏の、太宰についてのたった一つの残念な思い出話になるのだ。「一対一。そのうち勝負をつけましょう、と言い、私もそれをたのしみにしていたのに。」 ここ・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・なお、寸志おしるしだけにても、御送り申そうかと考えましたが、これ又、かえって失礼に当りはせぬか、心にかかり、いまは、訥吃、蹌踉、七重の膝を八重に折り曲げての平あやまり、他日、つぐない、内心、固く期して居ります。俗への憤怒。貴方への申しわけな・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「たしかに、おあずかり致します。他日、佐伯君の学業成った暁には、――」「いや、それには及びません。」私は、急に、てれくさくて、かなわなくなった。お金など、出さなければよかったと思った。「ここを出ましょう。街を、少し歩いて見ましょう。」・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・貴下が、他日、貴下の人格を完成なさった暁には、かならずお逢いしたいと思いますが、それまでは、文通のみにて、かんにんして下さいませ。本当に、このたびは、おどろきました。ちゃんと私の名前まで、お知りになっているのですもの。きっと、貴下は、あの私・・・ 太宰治 「恥」
・・・それで、これは夏目先生に関する一つの資料として保存しておけば他日きっと役に立つ機会があるであろうと思ったので、当時の大学理学部物理教室の自室の書卓の抽斗しの中に他の大事な手紙と一緒に仕舞い込んでおいた。 ところが、その後間もなく自分は胃・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・こういう例をあげれば際限はない。他日適当の場所で細説したいと思う。 録音と発音の機械的改良が進展して来る一方でまたトーキーファンの聴覚が訓練されて来れば、発声映画の可能性はさらに拡張されるであろう。点滴の音によってその室の広さを感じ、雷・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 以上は映画の世界像における力学的各要素を筋書的に略記したに過ぎない。他日機会があったら、もう少し詳しくこれらのおのおのについて検討を試み、さらにその結果に基づいて映画の未来の可能性について具体的な考察を遂行したいと思っている。・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・もし他日この同じ地方に再び頻繁に地鳴りを生ずるような事が起これば、その時にはじめてこの想像が確かめられる事になる。しかしそれまでにどれほどの歳月がたつであろうかという事については全く見当がつかない。ただ漠然と、上記三つの大地震の年代差から考・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・これらの種類を列挙するのは本文の範囲以外になるから、これは他日に譲るとして、ここには専ら骨董趣味という点から見て二つの極端に位する二種の科学者を対照して見ようと思う。 科学者の中にはその専修学科の発達の歴史に特別の興味を有っている人が多・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
出典:青空文庫