・・・と言いますと、病人は「フーン」と言って暫し瞑目していましたが、やがて「解りました。悟りました。私も男です。死ぬなら立派に死にます」と仰臥した胸の上で合掌しました。其儘暫く瞑目していましたが、さすが眼の内に涙が見えました。それを見ると私は「あ・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・『仰臥漫録』に「顕微鏡にて見たる澱粉の形状」の図を貼込んであるのもそういう意味から見て面白い。 とにかく、文学者と称する階級の中で、科学的な事柄に興味を有ち得る人と有ち得ない人とを区別する事が出来るとしたら子規はその前者に属する方で・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
仰臥漫録 何度読んでもおもしろく、読めば読むほどおもしろさのしみ出して来るものは夏目先生の「修善寺日記」と子規の「仰臥漫録」とである。いかなる戯曲や小説にも到底見いだされないおもしろみがある。なぜこれほどお・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・その上にゆったりと仰臥したまま、永久正気に戻ることない幸雄が襖越しに、「いいよ、心配しないでも行くよ。――いいから、福ちゃんも新橋へおかえりよ」と返事するのであった。福ちゃんと呼ぶのがいかにも母親の果敢ない一生を云い当てているようで・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ たとえば私がカサカサした枯れ芝生の上に仰臥して光明遍照の蒼空を見上げる。その蒼い、極度に新鮮な光と色との内に無限と永遠が現われている。そうしてあたかもその永遠の内から湧きいでたように、あたかも光がそれを生んだように、私の頭の上には咲き・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫