・・・のをフーフー口とがらせて食べ、仲良く腹がふくれてから、法善寺の「花月」へ春団治の落語を聴きに行くと、ゲラゲラ笑い合って、握り合ってる手が汗をかいたりした。 深くなり、柳吉の通い方は散々頻繁になった。遠出もあったりして、やがて柳吉は金に困・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 瞳のことだ――と察して、坂田はそのためのこの落ちぶれ方やと、殆んど口に出かかったが、「へえ。仲良くやってまっせ。照枝のことでっしゃろ」 楽しい二人の仲だと、辛うじて胸を張った。これは自分にも言い聴かせた。照枝がよう尽してくれる・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・ 千たび語りても、なお、母は巌の如く不動ならば、――ばかばかしい、そんなことないよ、何をそんなに気張っているのだ、親子は仲良くしなくちゃいけない、あたりまえの話じゃないか。人の力の限度を知れ。おのれの力の限度を語れ。 私は、・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・私は日ましに彼と仲良くなった。なぜ私は、こんな男から逃げ出さずに、かえって親密になっていったのか。馬場の天才を信じたからであろうか。昨年の晩秋、ヨオゼフ・シゲティというブダペスト生れのヴァイオリンの名手が日本へやって来て、日比谷の公会堂で三・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・候ものに御座候えば、ただいま松の木の怪腕と格闘して破損などの憂目を見てはたまらぬという冷静の思慮を以てまず入歯をはずし路傍に安置仕り候ものにて、さて、目前の大剛を見上げ、汝はこのごろ生意気なり、隣組は仲良くすべきものなり、人のあらばかり捜し・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ その夜から私たちは仲良くなった。お医者は、文学よりも哲学を好んだ。私もそのほうを語るのが、気が楽で、話がはずんだ。お医者の世界観は、原始二元論ともいうべきもので、世の中の有様をすべて善玉悪玉の合戦と見て、なかなか歯切れがよかった。私は・・・ 太宰治 「満願」
・・・なんかと云って又仲良くしてもらうんなんかって事はしたくない人間なんだから…… 独りぼっちにされたって、やっぱり何ともない様なかえって愉快そうな笑いがおをして暮す人間なんだから、私は友達なんかなくったっていいんだ、本さえあれば。友達に、し・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・大伯母などは一度もここへは寄りつかなかったが私の母だけこことも仲良く交際していた。むかしはここは貧乏で、猫撫で声のこの伯母は実家の祖父の家から、許可なく魚屋へ逃げるように嫁いだのだということだったが、このころは祖父の家より物持ちになっていた・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫