・・・彼等はお律の診察が終ってから、その診察の結果を聞くために、博士をこの二階に招じたのだった。体格の逞しい谷村博士は、すすめられた茶を啜った後、しばらくは胴衣の金鎖を太い指にからめていたが、やがて電燈に照らされた三人の顔を見廻すと、「戸沢さ・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・そのまん中には女が一人、――日本ではまだ見た事のない、堂々とした体格の女が一人、大きな桶を伏せた上に、踊り狂っているのを見た。桶の後ろには小山のように、これもまた逞しい男が一人、根こぎにしたらしい榊の枝に、玉だの鏡だのが下ったのを、悠然と押・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・のみならずテニスか水泳かの選手らしい体格も具えていた。僕はこう言う彼女の姿に美醜や好悪を感ずるよりも妙に痛切な矛盾を感じた。彼女は実際この部屋の空気と、――殊に鳥籠の中の栗鼠とは吊り合わない存在に違いなかった。 彼女はちょっと目礼したぎ・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・健康は小さい時分にはたいへん弱い子で、これで育つだろうかと心配されたそうだが、私が知ってからは強壮で、身体こそ小さかったが、精力の強い、仕事の能く続けてできる体格であった。仕事に表わす精力は、我々子供たちを驚かすことがしばしばあったくらいで・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・「牛や象を見たまえ、皆菜食党だ。体格からいったら獅子や虎よりも優秀だ。肉食でなければ営養が取れないナゾというのは愚論だよ。」 が、鴎外は非麦飯主義で、消化がイイという事は衛養分が少ないという事だという理由から固く米飯説を主張し、米の・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 彼は氏神の前に誓った通り、もう仕事にも出掛けず、弟子も取らず、一日家にいて、そして寿子が学校へ出掛けた留守中は、どうすれば人一倍小柄な寿子の貧弱な体格で、元来西洋人の体格に応じた楽器であるヴァイオリンが弾きこなせるだろうか、どうすれば・・・ 織田作之助 「道なき道」
三年生になった途端に、道子は近視になった。「明日から、眼鏡を掛けなさい。うっちゃって置くと、だんだんきつくなりますよ」 体格検査の時間にそう言われた時、道子はぽうっと赧くなった。なんだか胸がどきどきして、急になよな・・・ 織田作之助 「眼鏡」
・・・が丁度その時、坂の向うから、大きな体格の白服の巡査が、剣をガチン/\鳴らしながらのそり/\やって来た。顔も体格に相応して大きな角張った顔で、鬚が頬骨の外へ出てる程長く跳ねて、頬鬚の無い鍾馗そのまゝの厳めしい顔をしていた。処が彼が瞥と何気なし・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 髭髯が雪のように白いところからそのあだ名を得たとはいうものの小さなきたならしい老人で、そのころ七十いくつとかでもすこぶる強壮なこつこつした体格であった。 この老人がその小さな丸い目を杉の杜の薄暗い陰でビカビカ輝らせて、黙って立って・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ 猶お友の語るところに依れば、お露は美人ならねどもその眼に人を動かす力あふれ、小柄なれども強健なる体格を具え、島の若者多くは心ひそかにこれを得んものと互に争いいたるを、一度大河に少女の心移や、皆大河のためにこれを祝して敢て嫉もの無かりし・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
出典:青空文庫