・・・そのせいでもあるまいが、体温計とその度盛はたいそう大事がられ、風呂場の寒暖計はひどく虐待されるようである。 話は横道に外れるが、盥に入れた湯の湯気の上り方を見れば、だいたいの温度の見当がつくものである。しかしいつか赤ん坊をいきなり盥の熱・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・人に対して一人のフェルシンニッツア、体温計、その中に一本いつも三度低いのをもってかけ廻る。 ニャーニカは大体親切だ。けれども、彼女達の話すアクセントを一度きいたら 彼女達の踵にはどんなに田舎の泥がしみ込んで居るか。敏捷とか 医学的教養と・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・けれども、この頃を境として生活費の膨脹は熱病患者の体温計のように止めようとしても止まらない力で上昇した。しかし、労働賃銀というものはあらゆる場合に、物価高に追付くことは不可能であるから、二つの間の開きは破局的に大きくなって来た。このようにし・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫