・・・衣服を剥がれたので痩肱に瘤を立てている柿の梢には冷笑い顔の月が掛かり、青白く冴えわたッた地面には小枝の影が破隙を作る。はるかに狼が凄味の遠吠えを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧が朦朧と立ち込めてほんの特許に木下・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ もしわれわれが、唯心唯物のいずれかを撰ぶことによって、世界の見方が変るとすれば、われわれの文学的活動に於ける、此の二つの変った見方のいずれが、より新しき文学作品を作るであろうか。 それは少くとも唯物論もしくは唯物論的立場で・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・再び眼が見え出した時には、私は生きることと作ることとの意義が「やっとわかった」と思った。私は自分を愧じた。とともに新しい勇気が底力強く湧き上がって来た。 親しい友人から受けた忌憚なき非難は、かえって私の心を落ちつかせた。烈しい苦しみと心・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫