・・・ 作家たるもの、またこの現象を黙視し得ず、作品は二の次、もっぱらおのれの書簡集作成にいそがしく、十年来の親友に送る書簡にも、袴をつけ扇子を持って、一字一句、活字になったときの字づらの効果を考慮し、他人が覘いて読んでも判るよう文章にいちい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・こういう教案の作成に費やす時間があれば、むしろその時間に先生が、先生自身の題目の研究をした方がよいと思う。先生自身の研究の挿話は生きた実例としてどれだけ強く生徒に作用するか分らない。死んだ借り物の知識のこせこせとした羅列に優る事どれだけだか・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・なかに新聞記者が記事作成の上に加えられる不便をかこった科白がある。日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得るということは、その一面に何を暗示しているのであ・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・にもかかわらず、現内閣は、よたつきながら、今倒れるか、今倒れるかと思われながら、とうとうモラトリアム公表という重大な危機さえ突破して、どういう工合に作成されたものか、一昨日には憲法改正草案を発表するところまでもち越して来ている。 私たち・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・そして政府の放送事業法案にたいして、より具体的にラジオ民主化の可能性をもった放送委員会法要綱を作成した。 現放送委員会の放送委員会要綱は、原則として、国民生活の各面を代表する男女三十名から三十五名をもって構成する。さらにこの多数制の委員・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・特に、世界とその一環としての日本の文学が、質的に大きい変転を行い、波瀾を経つつある最近の「十年間あまり、国文学研究の中道が、殆どすべて本文校訂とか稿本作成とか、考証とか、索引作成とかいう資料整理的の仕事それ自体を目的とする範囲を出なかったこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・同志小林の功績は、実にプロレタリア文学運動におけるその如き党派性、その如き科学性の確立のために、決議の作成へまで発展的にしかも飽くまで厳密にわれわれを批判し、鼓舞激励したところにこそあるのである。 貴司は『改造』四月号の「人及び作家とし・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・けれども明治二十二年に出来て最近まで伝えられた日本の欽定憲法は人民によって作成され、決定されたものではなかった。支配権力が自身の権力の擁護のためにつくった傾きがつよいから、人民の諸問題よりも大権を絶対のものとして明記してあることに注意が集注・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫