・・・ではその人間とはどんなものだと云うと、一口に説明する事は困難だが、苦労人と云う語の持っている一切の俗気を洗ってしまえば、正に菊池は立派な苦労人である。その証拠には自分の如く平生好んで悪辣な弁舌を弄する人間でも、菊池と或問題を論じ合うと、その・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・その歌、『古今』『新古今』の陳套に堕ちず真淵、景樹のかきゅうに陥らず、『万葉』を学んで『万葉』を脱し、鎖事俗事を捕え来りて縦横に馳駆するところ、かえって高雅蒼老些の俗気を帯びず。ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆をし・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・しかれども用語、句法の美これに伴わざらんには、あたら意匠の美を活動せしめざるのみならず、かえってその意匠に一種厭うべき俗気を帯びたるがごとく感ぜしむることあり。蕪村の用語と句法とはその意匠を現わすに最も適せるものにして、しかも自己の創体に属・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 自然で、俗気のみじんもない、どうとも云われずどっしりと人にせまって来る気持を持って居る小田原の名の海は、江の島附近の、のどかで快いとは云いながら軽々しい様子とまるで違う。 それで又、北国の名の海を見たら又小田原の海は軽々しい様子に・・・ 宮本百合子 「冬の海」
出典:青空文庫