・・・しかし何家の老人も同じ事で、親父はその老成の大事取りの心から、かつはあり余る親切の気味から、まだまだ位に思っていた事であろう、依然として金八の背後に立って保護していた。 金八が或時大阪へ下った。その途中深草を通ると、道に一軒の古道具屋が・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ 人民を保護するとか何ンとか、口ではうまい事云って、この大事な息子の身体をこんなことにしてしまって、どうする積りなんだッ! さッ!」特高たちは、あ、又始まったと云って、自分たちの仕事にとりかゝって、見向きもしなかった。 検挙は十二月・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・そのごったがえしの群々の中には、そこにもここにも、全身にやけどをした人や、重病者が、横だおしになってうなっている。保護者にはぐれた子どもたちが、おんおんないてうろうろしている。恐怖と悲嘆とに気が狂った女が、きいきい声をあげてかけ歩く。びっく・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・人の話に依りますと、ユーゴー、バルザックほどの大家でも、すべて女性の保護と慰藉のおかげで、数多い傑作をものしたのだそうです。私も貴下を、及ばずながらお助けする事に覚悟をきめました。どうか、しっかりやって下さい。時々お手紙を差し上げます。貴下・・・ 太宰治 「恥」
・・・父の実家が、さちよの一身と財産の保護を、引き受けた。女学校の寮から出て、また父の実家に舞いもどって、とたんに、さちよは豹変していた。 十七歳のみが持つ不思議である。 学校からのかえりみち、ふらと停車場に立寄り、上野までの切符を買い、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・始めにヒロインとその保護者がこの行列を見送る場面ではヒロインと観客は静止していて行列はその向こう側を横に通過する。次にこの行列の帰還を迎える場面でも行列はやはりわれわれ観客の前を横に通過するのであるが、ここでは前と反対にヒロインがその行列の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また衣服その他で頭をおおい、また腹部を保護するという事は、つまり電気の半導体で馬の身体の一部を被覆して、放電による電流が直接にその局部の肉体に流れるのを防ぐという意味に解釈されて来るのである。 またこういう放電現象が夏期に多い事、および・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・深さ一メートルの四角なコンクリートの柱の頂上のまん中に径一寸ぐらいの金属の鋲を埋め込んで、そのだいじな頭が摩滅したりつぶれたりしないように保護するために金属の円筒でその周囲を囲んである。その中に雨水がたまっていた。自分はその水中に右の人差し・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・戦敗の世は人挙って米の価を議するにいそがしく、花を保護する暇がないであろう。 真間の町は東に行くに従って人家は少く松林が多くなり、地勢は次第に卑湿となるにつれて田と畠とがつづきはじめる。丘阜に接するあたりの村は諏訪田とよばれ、町に近いあ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・現に科学者哲学者などは直接世間と取引しては食って行けないからたいていは政府の保護の下に大学教授とか何とかいう役になってやっと露命をつないでいる。芸術家でも時に容れられず世から顧みられないで自然本位を押し通す人はずいぶん惨澹たる境遇に沈淪して・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫