・・・ おれ何時か云ってやろう、云ってやろうと思って待っていたんだが、お前さんとこの働き手や俺ンとこの一人息子をこったら事にしてしまったのは、この」と云って、お前の母を突き殺すでもするように指差しながら、「この伊藤のあんさんのお蔭なんだ。あんさん・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・「なにしろ、あなたのところの養子もあの通りの働き手でしょう。あの養子を助けて、家の手伝いでもして、時には姉さんの好きな花でも植えて、余生を送るという気には成れないものですかなあ」「熊吉や、それは自分の娘でも満足な身体で、その娘に養子・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・すくなくも二人もしくは二人半の働き手を要するのが普通の農家である。それを思うと、いかに言っても太郎の家では手が足りなかった。私が妹に薄くしてもと考えるのは、その金で兄の手不足を補い、どうかしてあの新しい農家を独立させたかったからで。 言・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ごはんの知らせが来ても、私は、からだ工合が悪いから、きょうは起きない、とぶっきらぼうに言い、その日は局でも一ばんいそがしかったようで、最も優秀な働き手の私に寝込まれて実にみんな困った様子でしたが、私は終日うつらうつら眠っていました。伯父への・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・そしてサークルから段々婦人の文化・文学的働き手を養成しなければならない。 既に出来ているサークルで、そこには婦人サークル員がまだ参加していないところでも、国際婦人デーの記念の座談会・懇談会は必ず持たなければならぬ。その席上で、支配階級の・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・しかし、今日のごく若い文学の働き手、または今日読者であるが未来は作家と期待される人々にとって、民主の文学といっても、なんとなしいきなりつき出された棒のような感じを与えるのではないだろうか。若い世代は、その人々の怠慢によって知らなかったのでは・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・もう彼女にとって、忠実なる働き手の良人は何の魅力も持って居りません。重荷でございます。早く振りはなしてしまいたい、けれども、若し自分がこのまま単純に左様ならを告げたのでは損になる。真個に彼女は字通り損になると思うのでございます。 其だか・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・よいプロレタリア文芸の働き手はいつも必ず闘争においてひるむことを知らぬ卓抜周密な同志である。〔一九三三年六月〕 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・夜も昼も区別をしない働き手です。余り身軽で、静かで、伴う物音がないから、時々行方をくらましたとさえ思われるが、明るい澄んだ心の光ですかして見ると、つい傍にいたのがわかります。 やっと、今鎮まったあの天と地との大騒動の間でも、私は私の任・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 社会進化の過程で、奴隷という働き手が出来、その労働で富が蓄えられ、耕作・牧畜・その他の固定した土地からの収穫がふえるにつれて、部落の男、父親が、その財産の管理者として権力を発揮しはじめた。女は、その財産をうけつぐための子供をうむも・・・ 宮本百合子 「貞操について」
出典:青空文庫